短調で書かれ、曲全体が悲壮感に貫かれています。先人曰く、「高貴な悲劇美」「疾走する哀しみ」「人類の魂の歌」。撥刺とした「フィガロ」、強い希望に満ちた「ジュピター」と好対照をなし、モーツァルトのもう一面を知るためにも重要な曲です。
第一楽章 モルト アレグロ
「ここしか作曲しなくても、その名は音楽史に残ったろう」とさえ言われる名旋律で始まります。ところで、このメロディーの直後にヴァイオリンが強奏するリズム、宴会でおなじめ「3・3・7拍子」のルーツと見るのは私だけでしょうか。「高貴な悲劇美」の後に宴会の話で恐縮ですが。
第二楽章 アンダンテ
一楽章から一転、穏やかな曲想に変わりますが、何かが忍び寄るような不安感、緊張感は続きます。そして哀しみがこれだけ美しく表現されていることに驚きを感じます。
第三楽章 メヌエット アレグレット
ユニゾン(同じ旋律を複数楽器で同時に奏でる)が多用され、大半が二声構成です。楽譜上は実に単純なのですが、実際に演奏すると奥行きのある響きになるところ、まさにモーツァルトの名人芸といえましょう。
数多い彼の功績の一つに、オーケストラにおける木管楽器群の地位向上がありますが、この楽章の中間部にも(上手に吹けば)甘美な木管アンサンブルが用意されています。
第四楽章 アレグロアッサイ
ここまできて、この曲のもつ悲壮感とは決して悲惨、厭世的なものでなく、精神の内面から来る苦悩であることがわかります。この曲を演奏するうえで一番大切のもの、それは「演奏技術」より「人生経験」かもしれません。
S.K.