小学校の音楽でおなじみの『遠き山に日は落ちて』の原曲として数ある交響曲の中でも知名度では群を抜く交響曲「新世界より」はチェコの作曲家アントニン・ドヴォルザーク(1841〜1904)の作品です。彼がニューヨーク国民音楽院院長の職にあった1893年5月25日に書き上げられ、同年12月15日にカーネギーホールで初演され、大成功を収めました。ドヴォルザークがアメリカ滞在中、熱心に研究をしていた黒人霊歌やアメリカンインディアン民謡の旋律の精神を用いた(あくまでも精神の使用であって旋律の転用ではありません)作品で、やはり国民音楽院院長時代に書かれた弦楽四重奏曲「アメリカ」とならんで、アカデミックであると同時に新世界のアメリカからしか生まれえない音楽(この曲以前のアメリカのクラシック音楽はヨーロッパ風の保守的なものでした)があることを実例をもって示した作品といえます。ドヴォルザークは「将来のアメリカ音楽が真にその名に値するためには黒人旋律の精神の基礎の上に立たざるを得ないだろう。これこそアメリカの民族歌謡である。従って貴国の作曲家たるものはこれに向かうべきである。私はアメリカの黒人旋律の中に音楽の高貴なる一大楽派を生むに必要なる全てのものを見いだす」と述べています。
楽曲は4楽章からなり、各楽章は序奏をもって始まります。
第1楽章 序奏アダージョ、楽章本部はアレグロ、ソナタ形式
フルートによって提示される第2主題は黒人霊歌の旋律によっています。
第2楽章 ラルゴ、ロンド形式
主要主題はイングリッシュホルンで奏される「あの」旋律です。ドヴォルザークはこの楽章を書き上げたあとに、興奮に震えながら情熱をこめてこの旋律を歌い、傍らにいた弟子のシェリーに「どうだ。美しい音楽だろう」と言いました。
第3楽章 スケルツォ、モルト・ヴィヴァーチェ、スケルツォ・トリオ形式
第4楽章 アレグロ・コン・フォーコ、ソナタ形式
激しい序奏から全管弦の合奏、既に演奏された各楽章の主題が次々に現れます。やがてそれらの主題が混然一体となり、展開部から壮大なコーダヘと収斂していきます。
M.K.