曲目紹介

モーツァルト 「フィガロの結婚」序曲


モーツァルトが30歳の年、1786年にウィーンで作曲、初演されたオペラ「フィガロの結婚」は、その後に続くオペラ「ドン・ジョバンニ」「コシ・ファン・トゥッテ」「魔笛」と並んで、彼の最高の傑作に数えられます。

このオペラの原作は、フランスの劇作家ボーマルシェによって1784年に作られた喜劇の戯曲です。フランス革命はこの5年後に起きるのですが、フィガロに象徴される反権力と伯爵に象徴される貴族の堕落ぶりの描写は、当局の目には甚だ不愉快で、民衆の目には痛快でした。
オペラ台本は、ウィーンの宮廷劇場付詩人ダ・ポンテによるものです。当時、危険思想をもっ戯曲としてウィーンでは上演禁止となっていた原作をモーツァルトの作曲によりオペラ化するに当たって、皇帝ヨーゼフ2世の許可をとりつけたのも、このダ・ポンテでした。

物語は、スペインに舞台を取り、セビリアの近くの架空の土地の城の中の1日です。この城主はアルマヴィーヴァ伯爵。夫人のロジーナとは数年前に結婚(その経緯が「セビリアの理髪師」です)したが、夫婦には子供がなく、倦怠期。伯爵の従僕フィガロ(元は床屋、ロジーナとの仲をとりもった手柄により従僕となる)と、夫人の小間使いスザンナとの結婚式が本日、とり行われる予定なのです。ところが、伯爵はスザンナに横恋慕。むざむざフィガロごときにあの女をやる手はあるまいと、廃止したはずの初夜権を復活させようかと考えたり、あれやこれやでスザンナをものにしようとします。そしてフィガロの結婚を潰す手段として女中頭のマルチェリーナを利用しようとします。彼女はいい年なのですが、フィガロに惚れています。それに、彼女は以前にフィガロに金を貸したことがあり、もし金を返せなかったらマルチェリーナと結婚するという証文をとっています。伯爵はこの証文を利用して金のないフィガロをマルチェリーナと結婚する羽目に追い込もうとします。そのマルチェリーナのあと押し役は、もと彼女の恋人であった医師バルトロです。彼はロジーナの後見人だったのですが、フィガロのせいでロジーナを伯爵にとられてしまったので、フィガロを憎んでおり、この際フィガロを痛い目に合わせてやろうと思っています。重要な脇役は伯爵の小姓ケルビーノ。思春期のこの少年は女性への憧れでいっぱいで、伯爵夫人やスザンナ、庭師の娘バルバリーナなど、だれにでも恋をしてしまいます。そして、フィガロとスザンナと伯爵夫人が共同して、伯爵のたくらみを失敗させようとするという物語です。
このオペラは華麗な序曲(二長調、プレスト、2/2)で幕を開けます。短いのですが、茶目っ気たっぷりで、しかも祝宴の気分を満喫させるこの曲を聞いただけで「フィガロの結婚」というオペラのすべてがわかってしまうような気になります。それはロココの大広問のまばゆいシャンデリアの輝き、人々のざわめきなのです。

K.T.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002