曲目紹介

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64



 交響曲第5番は、1888年チャイコフスキー48歳の作品である。この年、彼はそれまでの西欧での放浪生活に区切りをつけ、ロシアに定住の地を得て本格的にこの作曲に取り組んだ。彼が"人生の秋"を感じ始めていたことを物語るかのように、「運命」の動機と呼ばれる主題が全曲を貫いている。初演はこの年、チャイコフスキー自身の指揮により行われた。聴衆は熱狂し、ステージは花束で埋まったという。

 第1楽章:ホ短調
 暗く重々しい「運命」の動機がクラリネットによって奏され、曲は幕を開ける。この動機が弱々しく静まると主部に入る。クラリネットとファゴットによるオクターブの第1主題と明るく柔らかい流れを持った第2主題からなり、この2つの主題を中心に激しく展開して行く。クライマックスに達したのち、ため息のように消え入る。

 第2楽章:ニ短調
 甘美で感傷的なホルンの主旋律を中心に展開する。夢物語のような世界が拡がる楽章であるが、中間部にはあの「運命」の動機が渦巻いている。

 第3楽章:イ長調
 通常のスケルツォではなく、ワルツをここに置いているのは「ロシアのワルツ王」と呼ばれたチャイコフスキーらしい。第1ヴァイオリンから木管楽器へと幻想的な主題が受け継がれるが、中間部ではそれが一変して、忙しく16分音符の活躍となる。そして終結部では、夢から覚めるように再び「運命」の動機が現れ、強奏で終わる。

 第4楽章:ホ長調
 「運命」の動機の弦楽合奏により始まる。ただし、ここでは長調になり、荘厳さを感じさせる。主部に入ると、荒々しく強烈なマーチ風の主題が現れ、発展し、壮大なクライマックスが築かれたとおもうと、ティンパニの連打により音楽は中断する。全休止ののち、マエストーソで絢爛たるコーダが「運命」の動機をテーマに繰り広げられる。

K.K.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002