曲目紹介

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲



 メンデルスゾーンは作曲家として極めて良い環境に恵まれていた。父は銀行家で、管弦楽団を所有し、邸内に劇場を持っていた。現在でも時折演奏される12の小交響曲(番号付きの5曲とは別。ユース・シンフォニーとも呼ばれる)もこの楽団を念頭において書かれている。有名な作曲家にはたいがい早熟伝説がつきものであるが、彼もその例にもれず、9才でピアノの独奏会を行ったといわれている。しかし現代にもつながる偉業が20才の時、バッハの「マタイ受難曲」復活上演である。バッハは当時既に忘れられており、このことがなかったら我々現代の人間もJ.S.バッハという名前を知る事もなかったであろう。なお、ユダヤ人である彼がこの曲の指揮をしたり、後年宗教改革300周年を記念する交響曲第5番「宗教改革」を作曲するのも、父の代でプロテスタントに改宗していたからである。彼は世代的にはロマン派に属するのだが、その作風・手法は古典的である。例えばトランペットやホルンを自然倍音(ヴァルヴの切り換えなしに出るドミソド程度の音列)あるいはその付近で処理し、半音階的フレースをトロンボーンに割り当てるあたり、ベートーヴェン的と言える。(なお、ヴァイオリン協奏曲ではトロンボーンは使われていない)。ただ、ベートーヴェンと決定的に違うのは作風で、メンデルスゾーンにおいては運命に対する闘争というような悲壮なものはなく、飽くまで典雅で、というよりむしろ幻想的な作品が多いようである。もちろん、これが彼の育った環境と無関係でない事は言うまでもない。
 さて、ヴァイオリン協奏曲であるが、メンデルスゾーンは1838年に友人のヴァイオリン奏者、フェルディナント・ダビッドにこの曲の作曲を予告している。しかしすぎには完成せず、初演は死の3年前の1844年であった。曲は3楽章構成だが、切れ目なく演奏される。

 第1楽章:ホ短調
 激情的な第1主題と夢見るような第2主題の対照の妙が特徴。再現部前に置かれたカデンツァは作曲家自身のものであるが、従来カデンツァは独奏者の自由裁量に任されていたものであった。

 第2楽章:ハ長調
 一転して優雅な緩徐楽章。中間部でイ短調となりトゥッティ(全奏)と独奏のかけあいとなるがやがておさまり、静かに終わる。

 第3楽章:ホ長調
 第2楽章とのつながりを良くするためか、イ短調の導入部が設けられている。メンデルスゾーンの面目躍如、息をつかせる暇もない、推進力に満ちた軽快で華麗なフィナーレである。

T.O.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002