曲目紹介

モーツァルト:歌劇「皇帝ティトウスの慈悲」序曲



 TPOはその発足以来、演奏会のプログラムには必ずモーツァルトの作品を加えているが近頃は、クラリネット協奏曲(K622)、魔笛(K620)、レクイエム(K626)というふうにモーツァルトの後期作品を演奏する機会が多くなってきた。
 そして今夜は彼の最後のオペラ・セリアである皇帝ティトウスの慈悲(K621)の序曲をとりあげることとなった。今回この曲を演奏会でとりあげると決まったとき、フィガロの結婚や魔笛よりも明らかに知名度が劣るため、曲を知っているメンバーはごく少数であったに違いない。恥ずかしながら小生も最近まで名前しか知らず、あわててCDを買いに走った者のひとりである。
 このオペラは1791年夏の初め、オーストリア皇帝レオポルト2世のボヘミア王としての戴冠式のために書かれた祝典用オペラ・セリアである。ボヘミア政府から依頼されたモーツァルトはさっそくこの仕事にとりかかり、妻コンスタンツェと弟子のジュースマイアーを連れて戴冠式の行われるプラハに旅立った。
 ジュースマイアーに手伝ってもらいながら馬車の中でも作曲を続け、初演の前日である9月5日にようやく完成させたのである。モーツァルトは彼の音楽仲間であるクラリネットの名手、アントン・シュタートラ(彼のためにモーツァルトはクラリネット5重奏曲やクラリネット協奏曲を作曲している。)をプラハに連れていくために、クラリネットやバセットホルンのソロのあるアリアを書いている。
 またこのオペラの台本は、当時最もすぐれたオペラ・セリアの台本作家であった、メタスタージォによって1734年に書かれたものであるが、この古い台本に手が入れられ、当初の3幕が2幕に簡略化され、アンサンブル用のテキストが加えられた。さらに当局は立派な舞台を作るためにすでに引退していたエステルハージ宮の装置家ピエトロ・トラヴァーリャ(ハイドンの旧友)に装置を委嘱した。
 しかしながらモーツァルトの興味は古い時代のオペラ・セリアという堅苦しいジャンルよりももっと制限の少なく自由なオペラ・ブッファや「魔笛」のようなジングシュピールにあったようである。また当局がその準備にかなりの力を込めたオペラであったが、残念ながら当時及び近年までの評価はいまひとつである。このように一見地味ではあるが、演奏者にとっては光と影の対照からなる魅力的な曲である。さて今宵の演奏の出来はどうかな?

T.K.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002