曲目紹介

ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 Op.68



 1853年、20才のブラームスは作曲家として幸運なスタートを切った。9月、彼はデュッセルドルフにシューマンを訪ね、自作のソナタハ長調を演奏し絶賛され、音楽界に天才として紹介されたのである。もっとも、この時彼の作品は1曲も出版されてはおらず、また10才でデビューしていたとはいえピアニストとしてもさほど有名でない彼は周囲の過大な期待に困惑するばかりであった。しかしその後、ヨーゼフ・ヨアヒム(ヴァイオリニスト)、クララ・シューマン(ピアニスト)、ハンス・フォン・ビューロー(指揮者・ピアニスト)らのバックアップで彼の実力は次第に認められ、1868年の「ドイツ・レクイエム」の初演をもってドイツ語圏音楽界の人気をワーグナーと二分するまでにある。
 第1交響曲は1876年、ブラームス43才の時に完成された。着手年については諸説あるが1855年、シューマンの「マンフレッド」序曲に刺激されてということになっており、つごう21年もかかっているのである。それは彼の性格によるもので、彼は神経質なまでに完全主義者であり多くの作品を破棄しているが、中には献呈者に返却を要求した場合もあるという。彼のこの完全主義(実は気の弱さ)がこのような長期の構想期間を必要としたのであろう。
 この曲を作るにあたり彼が大きな目標としていたのは、ベートーヴェンを超えなければ意味がない、ということであった。これは、彼が10才頃師事していたエドゥアルト・マルクスゼンの古典音楽教育によるところが大きい。そしてこの交響曲は、ハ短調という調性、精神的闘争から勝利へを暗示する曲想、全体を統一する基本動機など、ベートーヴェンの第5交響曲「運命」と類似した点を持つに至るのである。

 第1楽章 ウン・ポコ・ソステヌート?アレグロ ハ短調 8分の6拍子
 重く悲痛な叫びのような序奏部にソナタ形式の主部が続く。情熱的な第1主題と優美な第2主題により構成されているが、序奏の半音階的音型とティンパニのリズムがここでも骨格的な役割を果たす。

 第2楽章 アンダンテ・ソステヌート ホ長調 4分の3拍子
 第1楽章終わりのハ長調より長3度上がったホ長調で、本来明るく響くとされているのだがどことなくわびしい気分の漂うブラームスらしい緩徐楽章。中間部のオーボエソロを支える弦のシンコペーションなども、従来の古典派と違ったブラームスの個性を表している。

 第3楽章 ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラチオーソ 変イ長調 4分の2拍子
 本来スケルツォが置かれる所だが、全楽章の気分をより近付けるためか優雅な間奏曲となっている。

 第4楽章 アダージョ〜ビゥ・アンダンテ〜アレグロ・ノン・トロッポ・マ・コン・ブリオ ハ短調〜ハ長調〜ハ長調 4分の4拍子
 この楽章に限りトロンボーン3本が追加されている。長い序奏部はやはり全楽章を通じての統一感を出しており、しかもその動機は主題の予告となっている。アレグロになり主部に入るが、この第一主題がかのベートーヴェン第9交響曲第4楽章の「歓喜の歌」によく似ていると指摘される有名な旋律である。再現部の自由な発展によって展開部を兼ね、輝かしい勝利に向かって長いコーダが続く。

T.O.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002