モーツァルトは1785年3月10日、ウィーンのブルク劇場で、前日書き上げたばかりのこの曲を披露している。彼が29歳のときであり、作曲家と同時にピアノ演奏家として、自ら主催し、演奏した予約演奏会のために作曲したもので、フィガロの結婚の作曲に着手した年に当たる。ピアノ協奏曲は集中して作曲され、27番まであるピアノ協奏曲のうち12曲がこの時期(1784-86)に作曲された。この間、交響曲は1783年作曲のリンツから、1786年作曲のプラハまで一曲も造られていないが、彼の思いは協奏曲の分野で成長して、晩年の優れた交響曲に開花したものと思われる。
この時期のピアノ協奏曲の中で、この曲は、一月前に完成したニ短調協奏曲(KV.466)と、しばしば比較対照される。ニ短調の協奏曲が激情的かつ叙情的なのに比較し、この曲は構成美と均衡美に満ちており、ハ町長の明快さやハーモニーの広がりは、ジュピター交響曲に通じるものがある。
第1楽章は、弦のp(ピアノ)のユニゾンで奏される行進曲風の簡潔な第一主題のモティーフで始まり、管楽器群の付点音符が応答する。ピアノ・ソロが始まる予感のするところで、木管の叙情的なメロディーが奏せられ、ピアノがカデンツ風に入ってくる。第二主題は、40番のト短調交響曲そっくりのメロディーに続いて、ピアノで提示される。オーケストラの主題モティーフに、ピアノが華麗なパッセージをからませて、見事な展開となっている。
第2楽章の弦は弱音器を付け、3連音符と低音のピッチカートの伴奏に乗って、第一ヴァイオリンが、まことに美しい主題を奏する。「人間の声に関するあらゆる顧慮から、完全に解放された理想的なアリア」と音楽学者A・アインシュタインは述べている。ピアノがこれを反復するが、第二楽章を通じて、3連音符とピッチカートの伴奏音型は、主題を美しく引き立たせている。
第3が苦笑は展開部を欠くソナタ形式。最初にヴァイオリンで提示される主題のモティーフが、楽章全体にちりばめられ、弦楽器と木管とピアノとの対話が、実に生き生きとした楽章を作っている。またゲネラルパウゼを効果的に使っているのも面白く、長大な第1楽章に比べ快活な爽やかな楽章で全曲を締めくくっている。なおこの曲は、作曲者自身がピアノ独奏を補うために作曲したもので、モーツァルトによるカデンツァは残されていない。
K.O.