曲目紹介

R.シュトラウス/交響詩 「ドン・ファン」 作品20


 ドン・ファンはリヒャルト・シュトラウスが24歳の時に作曲された作品でリヒャルト・シュトラウスの出世作とも言える曲である。
 ドン・ファンは中世スペインにおける伝説上の人物で、美男で好色、数千人もの女性を誘惑した人物として描かれている。物語はある貴族の娘をものにしようと画策している中で父親である騎士長を殺害してしまう。後日、墓地で見かけた騎士長の石像を戯れに晩餐会に招待する。すると、晩餐会に本当に騎士長の石像が現れドン・ファンを地獄に引きずり込むという話である。
 同じこの伝説を題材にモーツァルトはオペラ『ドン・ジョヴァンニ』(イタリア語だとドン・ジョヴァンニとなる。) を作曲している。モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』はその好色ぶり、放蕩ぶりに焦点を当てたものとなっているが、リヒャルト・シュトラウスは精神的な面に焦点を当て理想の女性への憧憬、しかし、満たされない苦悩、焦燥する心の動きを描写しておりモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』とは趣向が異なるものとなっている。
 複数の場面が描写されているが曲は途切れることなく繋がっている。まず、冒頭で弦楽器を中心にドン・ファンの情熱が歌いあげられる。このテーマは曲中でたびたび登場する。曲想が穏やかになったところでヴァイオリンのソロにより第1の女性のテーマが提示される。女性への憧憬、恋のやり取りが表現されるが次第に不満が現れてくる。不協和音によりドン・ファンの不満が表されると曲は切迫感が増しついには失望へとつながる。満足が得られないことによるドン・ファンの苦悩が表された後、場面が切り替わり、オーボエにより第2の女性のテーマが提示される。理想の女性を見つけたかのような喜びが表現されるが次第に満たされない焦燥感が現れ始める。そしてついには破綻し、絶望感が表される。冒頭のドン・ファンのテーマが再度提示され強い情熱、欲望が表されるが最後の時が訪れる。音楽が最高潮となったところで突然全休止が入りドン・ファンの死が表現され幕切れとなる。
 巧みなオーケストレーションにより表現された感情の揺れ動きを感じて頂ければ幸いである。

ヴァイオリン Y.K


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2019