曲目紹介

ドヴォルジャーク:交響曲第8番 ト長調 作品88


 この曲は、ドヴォルジャークが生涯に残した交響曲の中で、第9番「新世界より」に次いで、広く知られています。このボヘミア地方(現在のチェコ共和国の中部から西部)の民族色豊かな交響曲は、彼が48歳の頃にわずか数か月で書き上げられ、1890年2月にプラハで自身の指揮により初演されました。
交響曲というと堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、第8番は、聴衆の方々にとって聴きやすいだけではなく、演奏者にとっても親しみやすい魅力的な旋律が沢山ちりばめられています。

 第一楽章は、コントラバスとヴィオラのピッチカートによる伴奏を従えて、チェロを中心とした優美でのびやかな短調の旋律で静かに始まります。序奏のような17小節が終わると、フルートの明るく快活なソロに導かれて、躍動感あふれる音楽が始まります。この旋律を気持ちよさそうにうたう奏者たちにご注目ください。曲全体の中で、たった2小節しか出番のないコールアングレのソロもお聴き逃しなく。

 第二楽章は最もドヴォルジャークらしい独創性に富んだ楽章で、弦の柔らかい旋律で始まります。小鳥のさえずりを思わせるフルートとオーボエの掛け合いとクラリネットの穏やかな旋律が重なり、コンサートマスターによるヴァイオリンソロが続きます。しっとりとしたソロの後は、一転して全楽器がフォルテッシモで壮大なクライマックスを作り上げ、再び静かな響きに戻ります。

 第三楽章はスラヴ舞曲風の優美で美しい音楽です。日常の喧騒に追われる中、温かい春の日差しを浴びた田園風景に包まれるような心地よさを味わうことができ、オーケストラをやっていて幸せだなぁと思う瞬間がここにあります。弦楽器が奏でる旋律に、皆さんはどのような風景を思い浮かべるでしょうか。

 第四楽章は変奏曲形式。トランペットのファンファーレで始まり、ティンパニの鼓動に続いて、チェロが静かに主題を奏でます。弦楽器による第一変奏の後、突然華麗にして圧倒的な第二変奏に突入します。動物の咆哮を想わせるホルンのトリルは一度聴いたら忘れられないでしょう。第三変奏は、繰り返しを含めて32小節続くフルートソロの独断場ですが、下で支えるファゴットの旋律やトランペットの合いの手にもご注目ください。第四変奏で再び全楽器が加わり活発になった後、第五変奏ではヴィオラの特異なリズムに乗ってオーボエとクラリネットが新しい旋律をうたいだします。この旋律を聴いて、「こがねむしは金持ちだ〜」で始まる、野口雨情作詞、中山晋平作曲による童謡「こがねむし」を想い出す方は少なくないでしょう。さらに変奏は続き、チェロ、ヴァイオリン、クラリネットなどが気持ちよさそうに落ち着いた旋律を歌い上げた後、次第に速度を増し強烈な響きで怒涛のように終わります。

 東芝フィルがこの曲を演奏するのは、1997年4月の第11回定期演奏会以来、2度目となります。22 年という歳月の中で、当団を取り巻く環境は激変し、団員の入れ替わりもありました。しかし、音楽に浸るひと時の喜びを皆さま方と分かち合いたいという思いは、創設以来変わっていません。本日ご来場の皆さまにも、この思いをご実感いただければ幸いです。

ヴィオラ T.K

【参考文献】
「チェコ音楽の魅力」 内藤久子(東洋書店)
「作曲家別名曲解説ライブラリーE ドヴォルザーク」 (音楽之友社)
「アントニーン・ドヴォルジャーク 交響曲第8番」((公財)ジェスク音楽文化振興会)
© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2019