曲目紹介

ムソルグスキー/ ラヴェル編:組曲「展覧会の絵」


 音楽と絵画の関係性については古今より色々な議論がある。例えば、スイスの画家パウル・クレーは音楽家でもあり、彼の神秘的な作品からは正に音楽そのものが溢れ出ている。また私が大好きなアメリカの抽象画家マーク・ロスコの作品の前に立つと明らかに何らかの重低音が響いてくるのを感じる。音楽と絵画の関係性は興味が尽きないが、この作品のもう一つのポイントは編曲という点である。
オーケストラ育ちの私にとって、「展覧会の絵」とは色彩感溢れる華麗なオーケストレーションの交響作品のことであるが、初めてムソルグスキー原曲のピアノ演奏を聴いた時、音楽そのものではなく曲芸のような超絶技巧に感心したものだ。ピアノ原曲の繊細なニュアンスも良いがクレッシェンドするためには細かい音を連打するしかない。一方、オーケストラで奏する時の異なる楽器同士が溶け合って化学変化するような色彩感は、ピアノにはない醍醐味である。このような素晴らしい二つの作品を遺してくれた二人の作曲家には同等に畏敬の念を表したい。

各曲の細かい説明は省かせて頂くが、各々元となった絵画のタイトルがついている。それに囚われずあくまで純粋音楽として聴いて頂いても良いし、逆に音楽から絵画を連想して頂いても良いと思う。本日の演奏で、音楽と絵画の関係性になんらかの思いを馳せて頂ければ、大成功かと思う。

Promenade プロムナード
 ムソルグスキーが展覧会に向かって歩いていく。トランペットが主題を提示し管・弦楽器が発展させる。
T.Gnomus こびと
 民話に出てくるグノムス(こびと)は俊敏に動き回る土の精。冒頭は地底の不気味な雰囲気を表し、
 様々な打楽器も使われ、最後に妖精は走り去る。
Promenade プロムナード
 次の絵へと向かう廊下にて。ホルンと木管が牧歌的にテーマを奏でる。
U. Vecchio Castello 古城
 中世の古城の下、オーケストラではあまり用いられないアルトサックスソロが吟遊詩人風に歌う。
Promenade プロムナード
 金管楽器による冒頭と同じテーマが奏され、ヴィオラとチェロのピッチカートがそれを中断する。
V.Tuileries チュイルリーの庭
 チュイルリー公園でざわめく子供達。木管の軽快な主題、弦のやさしい旋律、木管に戻る3部構成。
W.Bydlo 牛車
 地平線のかなたから牛車が街に近づき遠ざかる。牛たちが見たのは圧政に苦しむ人々、抵抗者の
 処刑の場。チューバが冒頭に鈍重な主題を提示し、弦と木管が八分音符で重い歩みを奏する。
Promenade プロムナード
 フルートを主とした木管が寂しげな中にも柔和に響く中、次の絵に向かう。
X. Ballet des poussins dans leurs coques 卵の殻をつけた雛鳥の踊り
 ひなどりの鳴き声と軽妙な動きを、木管や弦楽器のピッチカート、トリル、チェレスタが描き出す。
VI. Samuel Goldenberg und Schmuyle サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ
 冒頭の木管と弦の重厚で威圧的なメロディは金持ちのゴールデンベルグを、弱音器を付けたトラン
 ペットのせわしなくおどおどしたメロディが貧乏人のシュミュイレを表す。
Z. Limoges - Le Marché リモージュの市場
 フランス中部の街リモージュの市場に集う女たちの賑わいを16分音符の早いパッセージで表す。
[. Catacombae, Cum mortuis in limgua mortua カタコンベ(ローマ時代の墓)、死せる言葉による死者への呼びかけ
 ローマ時代禁教となっていたキリスト教の信徒は地下の洞窟に葬られていた。管楽器と低弦の和音が
 鳴り響きトランペットが殉教のメロディを歌う。やがて高弦のトレモロ(細かく刻んだ音)と木管の
 ローマ時代禁教となっていたキリスト教の信徒は地下の洞窟に葬られていた。管楽器と低弦の和音が主題が融合する。
\. La cabane sur des pattes de poule(Baba Yaga)雌鶏の足の上に立つ小屋(バーバ・ヤガー)
 雌鶏の足を持った奇妙な小屋に住んでいるバーバ・ヤガーはロシア民話の魔女。たたきつけるような
 モチーフで始まり、中間部でトレモロが弦、木管に広がり、冒頭が再現されフィナーレへと続く。  
X. La grande porte de Kiev キエフの大門
 古くから東西交易の拠点として栄えた都キエフの大門を、前曲から続く管楽器の堂々とした主題で描く。
 その後クラリネットとファゴットによる祈りのメロディ、聖堂の鐘を経て壮大にテーマを奏で華やかに幕を閉じる。

H.M


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2018