曲目紹介

シューベルト:交響曲第7番 ロ短調「未完成」


 フランツ・ペーター・シューベルトと言えば各分野に名曲があるが、「歌曲の王」としても有名である。「魔王」「野ばら」等は日本の小学校でも習う程。今回のプログラムである交響曲第7番(8番と呼ばれていた時もあった)「未完成」という曲もシューベルトを代表する曲の一つである。 この曲は1824年に作曲された交響曲で、第3楽章の初めまで書きかけて中断していることから、後世の人により「未完成」という副題が付けられた。

グラーツのシュタイエルマルク音楽協会に名誉会員として推薦されたシューベルトは、その返礼として、同協会の役員だったアンゼルム・ヒュッテンブレンナーに第2楽章までの自筆譜を届けた。交響曲は第4楽章まであるのが普通であるので、この曲を受け取ったグラーツの役員は、後からもう2楽章分も届くだろうと長い間保留にしてしまった。そしてそのまましばらく忘れられ、なんと初演を迎えたのはシューベルトの没後37年後(1865年)との事である。 シューベルトは生前中は経済的に恵まれず、世俗的な成功とは無縁のまま、31歳9か月と言う若さで病気によって亡くなってしまった。

この「未完成」はベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界」と並んで三大交響曲とも呼ばれる程、世界中で愛されている曲である。
この曲が生前中に演奏されていたとしたら、彼の人生は大きく変わっていた事であろう。

第1楽章:アレグロ・モデラート ロ短調
 この曲の冒頭は、ロ短調の低音弦楽器から始まる。
 幕が開いた舞台には、暗い照明の中、心臓を鷲掴みに俯きただずむ主人公が立っている。そんな情景が浮かぶ旋律から始まる。その後弦楽器による鼓動を感じるリズムに暗示に満ちたオーボエとクラリネットによる第1主題が重なる。徐々に明るい曲想になっていき、ホルンが鳴り響いて音楽が一段落した後、それはそれは美しい、歌のようなメロディー、第2主題をト長調でチェロ、続いてヴァイオリンが奏でる。
その直後、突然激しい音によって遮らる。「幸せは長くは続かない」と言わんばかりに。

第2楽章:アンダンテ・コン・モート ホ長調
 ホルン・ファゴットの和音に、コントラバスによるピチカートで美しい第1楽章が提示される。その上に天上にのぼる歌声のような、ホ長調の美しく明るい旋律をチェロが奏でる。続いてクラリネット、オーボエと受け継がれていき、それまで出てきたモチーフが反復される。
溢れんばかりの美しい和音、転調が巧みな楽器の組み合わせで展開されていき、ホ長調の明るさのなかに、転調の苦痛、不安が顔を覗かせる。
これは一般的に言われている解釈だけではなく、私が練習の度に感じた描写を付け加えている。演奏者、聞き手によって曲の印象はそれそれであるので、自分なりの感じ方でお楽しみ頂ければと思う。

また、なぜシューベルトは曲を「未完成」にしてしまったのかは、実のところは分かっていない。シューベルトはこの曲を作曲している途中で亡くなったというわけではない。何かしらの理由で続きを書いていないのだ。そんな「未完成」というネーミングから、様々な憶測を呼び、様々な本や、作曲の製作秘話を描いたラブ・ロマンス映画もある。
聴くだけでなく、いろいろな角度からこの曲を見てみると、さらに豊かな情景が膨らむのではないだろうか。

S.T


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