オペラ『カルメン』は、プロスペル・メリメの小説を元に、音楽や歌の間を台詞でつないでいくオペラ・コミックの形で1875年に初演されました。初演は不評に終わったものの、その後の客入りと評判は決して悪くなく、ビゼーのもとには台詞部分を歌(レチタティーヴォ)に改作したグランドオペラ版への改変の依頼がされました。ところが、その執筆中に持病の扁桃炎による体調不良から心臓発作で急死しまいます。そこで彼の友人で「アルルの女」組曲などを編曲したエルネスト・ギローが彼の代役としてこの改作を担当し、ウィーンでの公演を大成功に収めました。
『カルメン』の魅力は、何といっても数えきれないほどの豊富な旋律。しかもそれぞれが美しく、場面の情景をよくあらわしています。本日は、たくさんの曲の中から主役のカルメンとドン・ホセに焦点を当ててセレクションしてお届けします。
【あらすじ】
舞台は1820年頃のスペイン、アンダルシア地方のセヴィリア。兵隊のドン・ホセは、故郷に許嫁のミカエラがいるにも関わらず、たばこ工場で働くカルメンに誘惑され本気になってしまったが故に、軍隊を追われ密輸団に加わってしまいます。一方、カルメンの方はドン・ホセに飽きてしまい、闘牛士のエスカミーリョに鞍替えします。ドン・ホセはそれでもカルメンを諦められず、闘牛場前の広場で言いよるのですが、カルメンから指輪を投げ返されたのに腹を立て、遂にカルメンを殺してしまいます。
第1幕:セヴィリアのたばこ工場前の広場にて
前奏曲
曲が始まった瞬間に誰もが「あっ!あの曲ね!」とわかる超有名な曲です。冒頭のテーマはラストシーンの闘牛士の入場行進の場面に出てきます。中間部はエスカミーリョのアリア「闘牛士の歌」の旋律を使っています。再度入場行進のテーマに戻り華やかに締めくくるのですが、続いて物語の最後を暗示する陰鬱な旋律が流れます。
ハバネラ(カルメンのアリア)
チェロの演奏するハバネラのリズムにのって「恋は野の鳥、誰も手なずけられない…」と歌い、ドン・ホセを誘惑します。
第2幕:リリアス・パスティアの酒場にて
間奏曲(アルカラの竜騎兵)
竜騎兵の行進を表すファゴットの旋律で始まり、行進を見守る民衆の様子を表す各木管楽器に展開されていく親しみやすい曲です。第2幕でドン・ホセがカルメンに会いに行く途中に口ずさむ歌から引用されています。
花の歌(ドン・ホセのアリア)
愛するカルメンに「おまえが投げたこの花を俺は牢の中でも手放さなかった…」と切々と歌いあげるドラマティックなアリアです。
第3幕:山中の密輸入者たちの隠れ家にて
間奏曲
フルートとハープが奏でる美しい旋律の曲です。
この曲はもともと「アルルの女」のために書かれた曲です。
第3幕は、カルメンとドン・ホセを含む密輸団が危険を恐れず出かけよう」と歌う六重唱や、カルメンの行く末をカルタで占う「カルタの三重唱」、ミカエラがドン・ホセの母から預かった手紙を渡す決意をするアリアなど、たくさんの見せ場があるのですが、、、今回は残念ながら割愛します。
第4幕:セヴィリアの闘牛場前の広場にて
間奏曲(アラゴネーズ)
「アラゴネーズ」は、スペインのアラゴン地方の舞踊を意味する言葉だそうです。闘牛士が颯爽と現れてきそうな前奏に続いてオーボエのメランコリックな旋律が流れます。その後、タンブリンを伴奏に様々な楽器が舞踊的な旋律を奏でます。
フィナーレ
ドン・ホセは「過去のことは忘れて、もう一度やり直そう」と迫ります。でもカルメンは「二人の間はおしまい」と冷たくあしらいます。闘牛場から行進曲にのって万歳の歓声があがり、一方であの陰鬱なテーマもたびたび表われ、物語はクライマックスへ。
カルメンは新しい恋人のエスカミーリョが好きだと言い、ドン・ホセにもらった指輪を投げつけます。ドン・ホセはこれに逆上し、持っていた短刀でカルメンを刺してしまいます。そして、呆然と崩れるようにひざまずき「俺が殺したのだ」と泣き叫びます。
フィナーレは、鳥木弥生さん、村上公太さんの鬼気迫る演技も注目です。お楽しみください!
T.Y