曲目紹介

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」


 1838年9月、パリのオペラ座にて、ルイ・エクトル・ベルリオーズ作曲のオペラ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」は初演された。これは
教皇クレメンス7世の統治下にあった、16世紀のイタリアはローマで活躍した彫刻家・ベンヴェヌート・チェッリーニの奮闘が題材にされて
いる。彼の生き様に感銘を受けたベルリオーズが、自叙伝を基に、謝肉祭を背景とした3日間に焦点を置いて台本の作成を依頼し、作曲を手
掛けたオペラである。この初演は、結論から言うと大不評に終わった。主な原因は、当時の聴衆の流行や嗜好・レベルに合っていなかった為
である。
 医者の家庭に産まれ、幼少期は音楽の教育を受ける事も、何かしら楽器を習う事もなかったベルリオーズ。後に然るべき教育機関で音楽を
学びはするが、それでも当時の流行や風潮とは一線を画す、独創的で想像力に富んだ作風を特徴とする作曲家となる。その為か、なかなか時
代が追い付かず、正当に評価されない事も多かったようだ。
 それはさておき、オペラ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」は不評に終わってしまった訳だが、作曲者本人はいたくこの作品を気に入って
おり、愛着を捨て切れずにいた。なんとかこの作品に耳目を集める事は出来ないか、そんな想いから、オペラの主要な旋律を引用して管弦楽
曲にアレンジする事を思い付く。そうして、オペラの初演から6年が経った1844年に完成した楽曲が、本日演奏する序曲「ローマの謝肉祭」
である。ちなみに初演はベルリオーズ自身の指揮によって行われ、見事アンコールを得るほどの大成功を収めた。
 この曲は先述の通り、劇中の旋律−具体的に言うと二重唱と、第2幕の前奏曲「ローマの謝肉祭」の2つの主題−が引用されている。後者
の「謝肉祭」の主題による、軽快で非常に華やかな序奏の後は、大まかに緩・急の2つの部分で構成されているが、前半の緩の部分は、主人
公チェッリーニとその恋人とによる愛の二重唱がモチーフとされる主題だ。その主題をまずコールアングレが穏やかに歌い始め、徐々に他の
楽器に移り変わり変奏されていく。その後、イタリアの郷土舞踊「サルタレッロ」を基にした「謝肉祭」が、満を持して開幕する。
 そもそも謝肉祭とは何なのか?キリスト教において、復活祭(イースター)の前に約40日もの間、肉や卵等を食さないようにする時期がある
そうだ。その断食の期間の前に、飲めや食えやと大騒ぎする、民衆によるお祭りを「謝肉祭」という。
「謝肉祭」の部分が始まってからは、まるでお祭り騒ぎそのもののように、旋律は目まぐるしく・疾走感をもって展開していく。最後に再び
愛の二重唱のテーマを覗かせ、盛大なクライマックスで閉幕となる。

R.I.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2017