曲目紹介

ドボルザーク:交響曲第9番「新世界より」


 アントニン・ドボルザーク(1841-1904)はボヘミア(現チェコ共和国)の小さな村 ネラホゼヴェスに宿屋兼肉屋の長男として生まれました。若い時代のドボルザークは音楽家になるつもりはなく、家業を継ごうとしていたと想像されますが、音楽が好きだった父親の影響を受けて合唱隊に加わる、ヴァイオリンを弾くと言う時代を経て、17 歳の時にはプラハ・オルガン学校に進みます。その翌年、オルガン学校を卒業すると、今度は地元の管弦楽団にヴィオラ奏者として入団し、この頃から作曲活動も始めます。
 1862 年にプラハ国民劇場の楽団員になった頃には、ドボルザークは民族的意識を重んじた作品を書くようになり、作曲家としての実績を残し始めています。1873 年には国民的音楽家スメタナの指揮で交響曲第3番が演奏されるなど知名度も上がり、作曲で食べていけるようになっていたようです。
 この頃からドボルザークはベルリン、ウィーン、ロンドンを行き来しながら音楽活動の場を広げると同時に、作品の数も増えていくことになります。その履歴を追ってみると特に交響曲は定期的に仕上げていることがわかります。少し書き出すと、交響曲第5番(1875 年)、第6番(1880 年)、第7番(1885 年)、第8番(1889 年)など。
 1892 年、ドボルザークは招かれて渡米をし、1895 年までアメリカで過ごしますが、この間に作曲をされた代表的な作品のひとつが交響曲第9番”新世界より”です。
 この交響曲が作曲された当初、モチーフ形成について様々な議論がありました。アメリカの要素とチェコの要素を持ち合わせている、あるいはインディアンの踊りの儀式に影響されていると言ったものです。
 これに対してドボルザークは残された手紙の中でこう書いています。「私はただアメリカの国民的なメロディの精神で書こうとしただけです。」

第1楽章 Adagio-Allegro molto ホ短調 序奏付ソナタ形式
ホルンが躍動的に演奏するテーマは、後の各楽章に繰り返し使われることで、曲全体としての統一感が保たれています。

第2楽章 Largo 変ニ長調 複合三部形式
ドボルザークの作品の中では最も親しまれていると言ってよい曲です。イングリッシュホルンによるテーマは、後年に様々な歌詞を付けて愛唱されました。

第3楽章 Scherzo molto vivace ホ短調 複合三部形式
冒頭からトライアングルが登場し、弦楽器により楽章全体のリズムが示されます。早く、リズミカルに進行するメロディは軽快ですが、ダイナミクスの変化に富んでいます。

第4楽章 Allegro con fuoco ホ短調 序奏付ソナタ形式
弦楽器の低音による半音階の序奏は音の幅を広げながら盛り上がり、第1主題をドラマチックに迎えます。その後、これまでに登場した各楽章のテーマが複雑に織り混ぜられて進行しますが、再び弦楽器によって第1主題が力強く奏された後、第1楽章のテーマの断片が再び現れて曲は終わりを迎えます。

H.S.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2016