曲目紹介

ベートーヴェン:交響曲第7 番 イ長調, 作品92


  ベートーヴェンの7 つめとなる交響曲は、1811 年から1812 年にかけて、ボヘミアの温泉地テプリツェで作曲されました。ちょうどこの頃はナポレオン率いるフランス軍にヨーロッパ各国の軍が勝利をし始めた時期で、ロシアが遠征してきたフランス軍を壊滅させた戦いは、後にチャイコフスキーの序曲『1812 年』の題材になっています。ベートーヴェンもこの時期に、ウェリントン公爵率いるイギリス軍がスペインで重要な勝利を収めた事を受けて交響曲『ウェリントンの勝利』を作曲しました。
 交響曲第7 番にも、この勝利に高揚した空気が反映されています。ドイツがフランスに勝ちその支配から解放された1813 年に、負傷した兵士たちのために開かれたチャリティーコンサートがこの曲の初演となりました。ウィーンでベートーヴェン自身の指揮により『ウェリントンの勝利』と共に演奏されましたが、この時には、サリエリ率いる大太鼓隊が大砲の音を轟かせる『ウェリントンの勝利』が大好評を博したといいます。しかし今では、5 番『運命』、6番『田園』を経て正統的な手法による交響曲に回帰したこの7 つめの交響曲の方が遥かに高く評価されていると言えるでしょう。

第1楽章 Poco sostenuto - Vivace イ長調
 ベートーヴェンが交響曲に序奏を設けたのは4 番以来の事ですが、管楽器の奏する雄大なメロディーから始まって幾つかの動機を重ねながら転調を繰り返す、複雑な構成のものになっています。Vivace はソナタ形式で書かれており複数の主題を持ちますが、全編同じリズムが貫かれており、同じリズムが時には力強く、時には軽やかに演奏されて様々な姿を見せます。長大なコーダの後、格調高く勇壮に幕を閉じます。

第2楽章 Allegretto イ短調
 色味がかった管楽器の和音で始まり、前楽章とはうってかわった静けさの中で、低弦が葬送行進曲を思わせるような音楽を奏でます。静かだった音楽は変奏曲のように何度も繰り返されるうち、同じメロディーがより高い楽器に引き渡されて楽器の数を増し、強く厚くなってゆきます。中間部では一転穏やかな長調の音楽になりますが、突然思い出したかのように、前繰り返されたメロディーが甦り、フーガになるなどの展開を経て、最後は冒頭と同じ和音で終わります。

第3楽章 Presto - Assai meno presto - Presto ヘ長調
 力強いスケルツォと穏やかで素朴なトリオからなります。コーダで一度トリオを思い起こした後、それを振り切るように唐突に終わる点は第九のスケルツォの構成とよく似ています。

第4楽章 Allegro con brio イ長調
 熱狂の渦のようなこの楽章もまた、繰り返されるリズムによって統一されています。アイルランド民謡から引用されているといわれる特徴的なリズムにのって次から次へと手を変え品を変え新たな熱狂へと向かいます。最後には第1 楽章と同じように、低弦が同じ音形をひたすら繰り返して最高潮へ押し進め、火花の飛び散るような勢いで終結へ向かいます。

T.M.


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