曲目紹介

レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」


 オットリーノ・レスピーギは1879 年にイタリアで生まれ、30 歳ごろまでヴァイオリンやヴィオラの演奏家として活動した後、作曲家に転向しました。イタリアは伝統的にオペラが盛んで、ヴェルディやプッチーニなど現在でも人気が高いオペラの作曲家を多く輩出している地でもあります。レスピーギも歌劇や歌曲を作曲していますが、最も演奏機会が多いのがローマの風景を題材とした『ローマの噴水』、『ローマの松』、『ローマの祭り』からなるローマ三部作と呼ばれる交響詩群でしょう。これらの曲には、当時のイタリア音楽というよりもむしろドビュッシーやラベルなどフランスの作曲家がけん引した、印象主義音楽の影響が感じられます。このことは、レスピーギが自国の音楽に留まらず国際的な視点の持ち主であったことを示していると言えるでしょう。また、単に先達の模倣をするのではなく独自の表現として消化され作品に取り入れられています。
 今日演奏する『ローマの噴水』は三部作の最初の作品で、今からちょうど100 年前の1916 年に作曲されました。初演は曲が理解されず失敗に終わったものの、1918 年にトスカニーニ指揮による再演で大成功を収め、世界的に有名になりました。4 カ所の噴水と、『夜明け』、『朝』、『昼』、『黄昏』の4 つの時間の組み合わせで、水のきらめきや透明感、太陽の美しさや力強さを巧みに表現しています。曲は噴水ごとに4 つの場面からなりますが、途切れることなく連続して演奏されます。

T . 夜明けのジュリアの谷の噴水
 ローマ郊外に位置する牧歌的な風景の中にある噴水。徐々に空が明るくなるなか噴水の脇を羊の群れが通過していくさまを、弦楽器の細かい音階で表しています。

U . 朝のトリトンの噴水
 ローマ市街地のバルベリーニ広場にある海神トリトンの噴水に朝日が差し込むと、噴き出た水が美しくきらめき、そのなかを水の精とトリトンが軽やかに舞い踊ります。

V . 昼のトレビの噴水
 今もローマの観光地で‘トレビの泉’として有名な噴水です。昼の力強い太陽が差し込むとネプチューンをはじめとする神々の勝利を告げる凱旋が始まり、壮大な響きが鳴りわたります。

W . 黄昏のメディチ荘の噴水
 栄枯盛衰のメディチ荘。主人は没落しても噴水は静かに水を出し続けています。沈みゆく太陽に哀愁を感じる中、遠くから聞こえてくる教会の鐘が夕闇に消え入るように全曲を閉じます。

Y.K.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2016