この曲はメルヘン・オペラの代表作ともいえる「ヘンゼルとグレーテル」の序曲です。フンパーディンクは19
世紀のドイツの作曲家で、「楽劇王」の別名を持つリヒャルト・ワーグナーに学んでおり、師の技法を取り入れたこの作品で大成功を収めています。
※楽劇:音楽と劇の進行を緊密にし、融合を図ったもの
原作は皆様ご存じのグリム童話ですが、オペラの台本はフンパーディンクの実の妹アーデルハイト・ヴェッテによるものです。彼女の「子供たちのために曲を付けて欲しい」という依頼で、全三幕という形式で作曲されました。1893年12
月23 日に、クリスマスの芝居としてワイマールで劇場初演されるとたちまち大好評を博し、120
年以上経った今日でもドイツ語圏の歌劇場では大人から子供まで楽しめる定番オペラとなっています。
オペラの舞台はドイツで、貧しい家に生まれた仲の良い兄妹のヘンゼルとグレーテルが、留守番中に家の手伝いもしないで遊んでいるところに母親が帰って来ます。腹を立てた母親に命じられ、野イチゴ摘みに森に出かけた二人は、奥深く入り込んだ挙句道に迷ってしまいます。そこに「眠りの精」が現れて眠らされますが、「暁の精」のおかげで翌朝目を覚ましたところ、目の前にお菓子の家が建っていました。お腹がすいていた二人が喜んでお菓子の家を食べていると、家の中から出てきた魔女に捕まり、食べられそうになるものの機転を利かせて魔女を退治します。すると、お菓子にされていた他の子供たちの魔法も解け、最後は二人を探しにやってきた両親とも再会して喜び合います。原作とは異なり、ハッピーエンドとなっているのは、子供向けであることを考慮したという説もあります。
冒頭は、オペラの第二幕でヘンゼルとグレーテルが眠る前に歌う「夕べの祈り」の主題で、四本のホルンによって奏でられます。ホルン特有の美しい響きでドイツの深い森へと誘い、これから始まる楽しいオペラの雰囲気を醸し出します。次に出てくるトランペットの元気なメロディーは、第三幕の最後で子供たちが魔法から解かれた時に鳴り響く「魔法を解く主題」で、一変して明るい雰囲気になります。
その後、森で目を覚ましたグレーテルが歌う「暁の精」の歌、「朝の主題」が弦楽器によって美しく奏でられます。続いて、魔法を解かれた子供たちの「喜びの主題」をオーボエが奏で、さらに様々なモチーフが絡まり合いながら曲が進み、最後に「夕べの祈り」の主題に戻っていきます。
この短い序曲の中には、オペラ中の名場面の音楽が沢山散りばめられています。今日は私たちの演奏で、ドイツの鬱蒼とした森やメルヘンな世界に皆様を誘えたらと思います。
T.T.