曲目紹介

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」から 第2曲 交響詩「ヴルタヴァ(モルダウ)」


 プラハ城と旧市街を結ぶヴルタヴァ(モルダウ)川にかかるゴシック様式のカレル橋のたもと。まるで雄大なヴルタヴァ川の流れに寄り添うように、スメタナの像があります。
 ベトルジハ・スメタナ(1824 − 1884)は、単なる民謡の復興ではなく時代の息吹を取り入れた国民音楽を目指したチェコを代表する作曲家です。苦難の歴史を歩んだ祖国の音楽を作るべく10 年の構想期間を経て連作交響詩「わが祖国」(全6 曲)を書き上げました。
 スメタナの祖国(現チェコ)は、1620 年から300 年間オーストリア・ハンガリー帝国の支配下におかれ、母国語を禁じられるなど厳しい屈辱的迫害を受けてきました。スメタナも市街地の武力革命などが起こる中、スウェーデンへの移住を余儀なくされました。スメタナは当時の気持ちを「こんなにも愛する故郷を離れなければならないのは悲しいことだ。美しい偉大な祖国よ、さようなら。あなたの土は、私には神聖だ。」と書き残しています。スメタナの祖国を愛する強い思いが、この連作交響詩「わが祖国」へ大きな影響を与えました。
 「わが祖国」の第2 曲「ヴルタヴァ」は、日本では「モルダウ」として合唱曲などでも親しまれ、哀愁に満ちたメロディはとても有名です。また、交響詩(文学や人々の思いを管弦楽によって表現する音楽スタイル)として、ヴルタヴァ川の源流から下流へと徐々に川幅を広げながらプラハ市内へと雄大に流れていく姿、それに伴うチェコの風景や民族の様子を絵画的に描写しています。管弦楽の個々の楽器の特徴や音色を巧みに組み合わせた見事な描写を堪能できる一曲です。

<ヴルタヴァの源流>
 冒頭は二本のフルートによる第1 源流と続いてクラリネットによる第2 源流が掛け合いをするように曲が始まり、雫が落ちる様子をヴァイオリンのピッチカートによって表現されます。やがて川は大きな流れとなり、弦楽器で水の動きが表現されるなか、オーボエとヴァイオリンによるなめらかなメロディ(主題)が出てきます。

<森の狩猟>
 川の流れは森に入っていき、川の流れを表現する弦楽器の上で、ホルンが勇ましく森の狩猟の角笛を響かせます。

<農民の踊り>
 遠方より農民の婚礼の舞曲が次第に近づいてくるように聞こえてきます。これは木管楽器と弦楽器で演奏され、スラブ舞曲を思わせるかなり民族的な要素が強く表されます。

<月の光・水の精たちの踊り>
 情景は夜へ。水の精の踊る様子を表すフルートとクラリネットの上に、弦楽器が月の光の情景を弱音にて表現します。ハープが幻想的な雰囲気を醸し出すなか、美しい転調の後に主題のメロディが再現されます。

<聖ヨハネの急流>
 その後、川の流れは聖ヨハネの急流にさしかかります。すると水の様子は一変し、岩にぶつかることによる激しい水しぶきがヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによって巧みに表現され、低音楽器と高音楽器が重なり激しさを増していきます。次第に急流を抜け、ヴルタヴァ川はプラハ市内へ流れていきます。

<ヴルタヴァの大河の流れ>
 雄大な流れはさらに希望に満ちた響きへ。最後は「わが祖国」第1 曲目「ヴィシェフラド」の主題を登場させて曲の統一性を表したことが伺えます。このヴィシェフラドは他民族の支配を受けなかった頃、チェコ人の王族たちが居城とした城で、チェコ人の原点とも言える場所です。そして、ヴルタヴァ川の流れはプラハの町を去っていきます。

M.E.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2014