曲目紹介

モーツァルト 協奏交響曲 変ホ長調 K.364(320d)


 本日演奏する曲には協奏曲(コンチェルト)ではなく協奏交響曲(コンチェルタンテ)という名称がついています。協奏交響曲は複数の独奏楽器がオーケストラと協調的に響きを作る性格を持っています。そのため独奏者とオーケストラは通常の協奏曲とは少し異なり、同等のパートナーとして扱われます。
 モーツァルトは1777年から1779年にマンハイムとパリを旅行した際に、この曲種に多数接する機会を持ち、その後故郷のザルツブルクに戻った1779年に作曲したと考えられています。しかし彼の数多い作品の中でこのスタイルで現存する作曲は少なく、学説的にはこの曲が唯一の協奏交響曲とも言われています。
 この協奏交響曲にはいろいろな特徴があります。まずこれまで作曲された5曲のヴァイオリン協奏曲とは異なり、モーツァルト自身のカデンツァが残されています。管弦楽は単なる伴奏としてではなく、むしろ積極的に活用されています。
 弦楽器では通常1つのパートであるヴィオラを1stヴィオラと2ndヴィオラに分け、ヴァイオリンと対比させる工夫をしています。特に興味深い点としてソロヴィオラに通常より半音高い調弦を指示しています。このようにすることで、変ホ長調で弾いているヴァイオリンとは違い、ヴィオラは開放弦を多用することができるようになります。
 モーツァルトはすぐれたヴァイオリン奏者であるとともに、すばらしいヴィオラ奏者でもありました。おだやかな音色のヴィオラからより輝かしい響きをだすために、演奏者としてのモーツァルトが閃いたアイデアだったのだと思います。

 ところで今井信子さんは何度かこの曲を録音されていますが、聴いてみますと半音高い調弦の演奏も通常の調弦での演奏も、どちらもありました。現在は当時と比べて楽器の性能が高くなっていることなどもあって、調弦の選択は解釈の1つとして演奏者の判断で行われているようです。

第一楽章 アレグロ・マエストーソ

協奏風ソナタ形式によるシンフォニックな堂々とした主楽章。交響曲と同様の形式で冒頭は始まり、その後独奏ヴァイオリンとヴィオラがオーケストラの響きの中で対話を繰り広げていきます。

第二楽章 アンダンテ

悲愴的な緩徐楽章。モーツァルトの作品の緩徐楽章で、この楽曲の美しさに心をうたれる方も多いと思われます。モーツァルトの当時の境遇がこの感動的な楽章に表現されているのでしょう。

第三楽章 プレスト

軽やかなフィナーレ。モーツァルト独特のロンド的な形式となっており、冒頭主題は2度回帰します。独奏ヴァイオリン・ヴィオラは快速なテンポで前進します。

 あるインタビューで今井信子さんはダニエル・アウストリッヒさんについて、「これまでこの協奏交響曲を数え切れないくらい様々な演奏家と弾いてきました。でも、ダニエルとは今までに無いような弾き方をした箇所がいくつもあって、本番が本当に楽しかった」とおっしゃっていました。本日も心に残る演奏会になるよう、団員一同頑張りたいと思います。

N.T.


©東芝フィルハーモニー管弦楽団2014