曲目紹介

ベートーヴェン 交響曲第8番ヘ長調作品93


 ベートーヴェンの9つの交響曲というと、日本では年末の風物詩ともなった第9番『合唱付き』、「ダダダダーン」で有名な第5番『運命』、ナポレオンに献呈しようとした逸話で知られる第3番『英雄』、ドラマ「のだめカンタービレ」のテーマ曲としても使われた第7番などが有名で演奏される機会が多い。今日演奏する第8番は、マイナーな部類に属する存在であり、耳にされたことがない方も多いのではないだろうか。
 今から200年前の1812年に構想され、その2年後の1814年に第7番と共に、ウィーンで初演される。第8番を気に入っていたベートーヴェンは、聴衆から良い反応が得られなかったことに相当不満を抱いたとされる。
 後期のベートーヴェンの作品は繰返しと展開を多用した重厚な曲目が多い中、第8番は演奏時間が25分程度と後期の交響曲としては異例の短さである。どの楽章も軽快に書かれているが、古典的な響きの中に独創的な要素が散りばめられている。ベートーヴェンがブラームス 悲劇的序曲 作品81ベートーヴェン 交響曲第8番ヘ長調作品93当時としては異例のfff(フォルテ3つ)を初めて使ったのは第7番とされているが、第8番でも使用されている。緩徐楽章を持たず、多彩な転調を経て音楽が深まっていく点からも、短いながらもロマン的で大きな交響曲と言えるだろう。

第1楽章 Allegro vivace e con brio
 序奏を伴わず大胆に全オーケストラで第1主題がff(フォルテ2つ)で提示される。木管楽器がそれに応え、弦楽器が続く。3拍子の軽快なテンポの中、メロディとリズムが巧みに変形され組み合わされながら独特の音楽が展開されていく。

第2楽章 Allegretto scherzando
 通常第2楽章ないし第3楽章には緩徐楽章が使われるが第8番に緩徐楽章はない。2楽章はスケルツォ風楽章である。木管楽器が刻む規則的なリズムの上にバイオリンがスタッカートで軽快なメロディを演奏する。このリズムは当時最先端の機械だったメルツェルの考えたメトロノームの音に着想を得たと言われている。

第3楽章 Tempo di Menuetto
 ベートーヴェンの第3楽章はスケルツォが定番な中、この楽章はメヌエットとなっている。力強く堂々とした導入を経てバイオリンが優雅に旋律を歌う。トランペットによるファンファーレが色を添える。トリオ部は2本のホルンが美しい旋律を奏でる。チェロの伴奏を伴いやがて旋律はクラリネットに移る。

第4楽章 Allegrovivace
 6連符のリズムを特徴とし、強弱が効果的に使われている。ここまであっさり目に続いてきたが、展開部とコーダは転調しながら念入りに展開され、ティンパニーの連打を伴い同じ動機が何度も繰り返される。躍動感を持つ6連符で始まる速い旋律が駆け回り、華やかでありながら爽やかなクライマックスへと到達する。

D.I.


©東芝フィルハーモニー管弦楽団2012