アントン・ブルックナー(1824~1896年)は、オーストリアの作曲家、国際的なオルガニスト、そして敬虔なカトリック信者である。
10曲の交響曲作曲家として日本で人気が高いが、教会用作品約50曲は、彼の作品の基盤となっている。彼の音楽の特徴は、壮大なオルガン的響き、慰めに満ちたアダージオ、金管楽器のファンファーレ、フレーズの長い旋律、多彩な転調、繰り返し(模続進行)の多用等、いくつも挙げられる。従来の作曲家に見られない独自の作風を示している。
彼の音楽の素晴らしさが本当に理解されるのは、20世紀後半からであり、「今の時代はブルックナー音楽の崇高さ、深い慰め、を求めている」とも言える。
「テ・デウム」は1881年に第1稿が作られ、1884年に完成した。力強く荘厳な響きを持つ曲で、後期ロマン派の作曲家が書いた宗教曲の最高峰と言われている。オーケストラ付き初演は、1886年1月。彼が生存した初演後の10間に29回も演奏された人気作品であった。交響曲第7番の第2楽章(敬愛するワーグナーの訃報に接し、哀悼の思いで作曲された)には、「テ・デウム」のフィナーレの主題が転用されている。
初めて世の中で認められた作品は、交響曲第7番と「テ・デウム」であり、彼が60才になった頃であった。
「テ・デウム」は「天主よ、われら御身をたたえ」と訳され、神に感謝の心を捧げる賛歌である。もともとはローマ・カトリック教会の聖務日課で日曜・祝日の朝課の最後に歌われる。5曲から構成され、連続して演奏される。
第1曲 | Te Deum(テ・デウム)(天主よ、われら御身をたたえ) 合唱と金管楽器が主題を力強く荘厳に歌い始める。 |
第2曲 | Te ergo(テ・エルゴ)(御身に願いまつる) テナー独唱で始まり他の独唱者が続く。合唱は登場しない。 ヴァイオリンのソロが、色彩を加える。短い曲であるが慰めに満ちている。 |
第3曲 | Aeterna fac (エテルナ・ファク)(とこしえに得し給え) 合唱が主題を力強く荘厳に歌う。第1曲とテーマ、リズムの点でも密接な関連が有る。 伴奏の下降音型が繰返され、合唱はユニゾンが多用されている。後半、合唱が無伴奏で コラールを歌う。 |
第4曲 | Salvum fac(サルヴム・ファク) (御身の民を救い給え) テナー独唱で歌い始め、女声合唱、他の独唱者が続く。第2曲と関連を持つ。中間部、 無伴奏で合唱が祈りの心を静かに歌う。後半、再びアレグロとなるが、弱音の祈りが 中心となる。 |
第5曲 | In te, Domine, speravi(インテ・ドミネ・スペラヴィ)(主よ御身より頼みたてまつる) 4人の独唱者の重唱で始まり、合唱が加わる。後半は合唱による二重フーガが展開される。 フーガが終わると弱音でベースが歌い始め、やがて4人の独唱者が主題を歌い始め、 合唱に主題が受け継がれる。 最後は2拍子となり、オーケストラ、合唱が第1曲のテーマを回想し、力強く全曲が 結ばれる。 |
TPC