歌劇「パルジファル」は、歌劇王と言われたリヒャルト・ワーグナーの書いた最後のオペラ作品であり、ワーグナーは“舞台神聖祝祭劇”と呼称している。初演は1882年にバイロイト祝祭歌劇場で行われた。
台本も作曲者によるもので、題材は聖杯伝説等、キリスト教に基づくものであるが、その主題は人の生まれ変わり、救済、成長、変貌など、一つの言葉では言い切れない独自の宗教性を持った作品となっている。作曲者の着想から完成させるまでに40年の時間がかかり、上演に至っても最初からバイロイト歌劇場の音響効果を想定して作られたためと、作品の性質とから、ワーグナーはバイロイト以外での上演を禁止しており、ワーグナーの死後も、妻のコジマがその意志を引き継いで活動した結果、30年余りバイロイトでの独占上演を認められた。
本日演奏するこの曲は劇中の第3幕で演奏される、主役のパルジファルは白鳥を撃ち落とした罪で引き立てられる純真で無垢な愚かな若者として描かれ物語ははじまるが、数々の経験を通して成長したパルジファルは洗礼を経て生まれ変わる。“聖金曜日の音楽”はこの場面で演奏され、物語の中核を担う曲となっている。
聖金曜日とは、キリスト教における最も重要祝日である復活祭に先立つ金曜日の事で、十字架に磔にされたイエスを記念する日であり、物語の中でも死からの復活という奇跡に関連を持ち、人格の生まれ変わりや意志の芽生えを奇跡として表している。
曲は、物語に登場する聖杯・祝・洗礼・葬祭などの動機が次々に現れ、折り重なり厳かな雰囲気を待って奏でられる。
楽曲の調性も効果的な用法が用いられており、巧みな転調により自然と音楽に引き込まれるように作曲されている。曲自体が重厚さを持っていると共に、楽器編成も大きく書かれており、ワーグナーの壮大な音楽を感じることが出来る。
H.T.