シャルル・グノー(1818〜1893年)は、フランスのオペラ作曲家として名高い。オペラ「ファウスト」、「ロ メオとジュリエット」が代表作品である。バッハの平均律クラヴィア曲集から編曲した「アヴェ・マリア」は、グノー
の「アヴェ・マリア」と呼ばれ日本でも広く親しまれている。
画家の父、ピアニストの母のもとで、音楽、芸術の素養を身に付けたグノーは、パリ音楽院に入学し、1839 年にカンタータ「フェルディナンド(Ferdinand)」でローマ大賞を受賞。3年間のイタリア留学の後、パリ外国伝
道教会の楽長兼オルガニストに就任し、同時に神学校で神学の勉強を始めている。パレストリーナ、ベルリオーズの 音楽を研究し、作品への影響も認められる。
「聖チェチーリア荘厳ミサ曲」は、グノー37歳の1855年に作曲された。(聖チェチーリアは、カトリック教 会において音楽家の守護聖人とされている。)彼の作品の特徴である宗教的信仰心と劇的叙情性が、発揮された作品 である。
対位法的な手法が殆ど見られず、華麗で透明なホモフォニー音楽になっている。サンサーンスはこの曲を「19 世紀後半のフランス音楽の代表作である」と激賞している。
第1曲 Kyrie(キリエ)(憐れみの讃歌)
静かな前奏で始まり、中間部では、3人の独唱者による三重唱と合唱が交互に歌い、優雅でリリシズム に満ちた曲である。
第2曲 Gloria(グローリア)(栄光の讃歌)
ホルンが、伸びやかな主題を歌い、ソプラノソロが、続く。そして、合唱が力強く、Laudamus te から歌う。 中間部は、バスソロでDomine
から歌い、テナーソロ、ソプラノソロが加わる。再びアレグロで、合唱が Quoniam から喜びを歌う。
第3曲 Credo(クレド)(信仰宣言)
全曲中の頂点をなす長大な楽章で、金管楽器が華やかに、主題を奏で、合唱がユニゾンで信仰の強さを 歌う。中間部では、ソロ三重唱でEt incarnatus から神秘的な曲想で歌う。受難のCrucifixus からは、バス ソロで始まり、合唱に続く。復活の場面は、アレグロでアルトがEt resurrexit と歌い出し、曲想が劇的に 変わる。終盤は、美しい分散和音のハープ伴奏で、天国的な曲想となる。
Offertoire(オフェルトリウム)(奉献唱)
オーケストラとオルガンによる、間奏曲を思わせる祈りの曲想。
第4曲 Sanctus(サンクトゥス)(感謝の讃歌 前半)
木管が主題を奏で、テナーソロが続き、静かな曲想が続く。後半、テンポが遅くなり、トロンボーンが 響きわたる輝かしい合唱となる。劇的な展開は、ベルリオーズの影響が認められる。
第5曲 Benedictus(ベネディクトゥス)(感謝の讃歌 後半)
ソプラノソロで、主題が演奏され、合唱が同じ主題を歌う。短いが、内省的な静けさにつつまれた曲。
第6曲 Agnus Dei(アニュス・デイ)(平和の讃歌)
テナーソロ、ソプラノソロを交え、深い信仰の念を歌う。静かにアーメンと祈り、敬虔に終わる。
第7曲 Domine Salvam(ドミネ・サルヴァム)(教会・軍・国家の祈り)
同じ主題を、混声合唱、男声合唱、混声合唱で力強く祈り、全曲をとじる。
(ミサ通常文ではなく、フランスの教会独特の祈りの曲である。当初の歌詞には、「主よ、われらの 皇帝 ナポレオンを助けて・救済してください」となっていたが、現在の歌詞には、「皇帝ナポレオン三世」は削 除されている。)
(TPC) K.K.