曲目紹介

オネゲル 交響的運動 第1番「パシフィック231」


 皆さん。ちょっと目をつぶって耳をすましてみてください。 汽車の汽笛が、蒸気の立ちのぼる音が、がったんごっとん走る音が、聞こえてくるかもしれません。
 「パシフィック231」は「フランス6 人組」のメンバーであるアルテュール・オネゲル(1892 − 1955)が1923 年に 作曲し、1924 年パリ・オペラ座にて初演されました。交響的運動は第3 番まであり、本日演奏するこの曲がオネゲルの代表作となっています。
 この曲はオネゲルが蒸気機関車への愛の表現として書かれたとされており、後に「パシフィック231」をイメージとした同じタイトルの短編映画を製作しています。 曲は300 トンの巨大な蒸気機関車が動輪をゆっくりと動き出し次第に加速、最高時速(120 マイル(193km))に到達後、急激に減速し停止する様子を表現しています。曲中では蒸気の噴出の描写から始まり、2 つの4分音符の組み合わせでゆっくりと動輪が動き出す様子を表現しています。前半のテンポやリズムの変化は、幾つものポイントを通過し本線に向かって進む様に聞こえます。機関車が加速するにつれシリンダーや連結棒が激しく動く様子を、3 連符や4連符 の組み合わせで表現しています。時折聞こえるヒュンッという鋭い音は線路脇の鉄塔や木々を通り越す様子を想像します。また幾度となく登場するトランペットやホルンの不規則な2 拍3 連と5 連符の組み合わせは、最高速度に向けて加速し続ける緊張感を生み出して行き、複雑なリズムの組合せと大音量によって急激に減速し巨大な機関車は停止します。
 この曲を演奏する度に感じる事は、単なる人工物の描写という表現では納まらず重々しく動き出した巨大な機関車が、様々なドラマを持った乗客を乗せ野や街をあらゆる事象に対しても一切動ぜず、一気に目的地まで爆走する様子を見事に表現している事でしょう。
〜 もっと詳しく! 〜
 「パシフィック」はアメリカ式、「231」は欧州式として用いられる鉄道車両の「車軸配置」のパターンを意味しており、いずれも前輪軸2、動輪軸3、後輪軸1 の軸配置を持つ蒸気機関車を示しています。車軸配置とは蒸気機関のシリンダーから主連棒、連結棒を介して回転し車体を動かす動輪と、車体重量をバランス良く支えつつ、レールに沿って進行を補助する前輪軸( 先輪)、後輪軸( 従輪) の配置を表したもので、このパターンはスピードを重視した旅客牽引用として使用されています。日本では2C1 と表記され、C57形式蒸気 機関車「貴婦人」が同型の構成です。
 この曲のモチーフとなった蒸気機関車の重量は300トン もあり最新の新幹線7 両弱の重さに相当します。現在国内で最も重い2 車体構造の電気機関車は弊社製のEH500とEH200 で134 トン、C57 で67 トンであることから、蒸気機関車という巨大な鉄の塊が野や街を勇ましく走る姿はまさに人智を越えた「爆走」と言えるでしょう。

H.T.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2009