曲目紹介

メンデルスゾーン 「真夏の夜の夢」序曲 作品21


 メンデルスゾーンは16歳のときに、このシェイクスピア劇を自宅敷地内の劇場で子供劇としてプロデュースしている。そして、翌年に序曲を作曲することになるのは自然の成り行きであった。この軽妙で透明感のある序曲は、後年英国で演奏されて大人気になる。その演奏に興奮した英国の関係者が馬車の中にオーケストラ総譜を置き忘れるという出来事があったのだが、メンデルスゾーンは記憶を頼りにもう一冊の譜面を作った。その楽譜は、後日届けられた忘れ物のそれと完全に同じだったという。
 今年はメンデルスゾーン生誕200年の記念の年に当たる。大哲学者の孫であり、銀行家の息子であった彼は、当時ユダヤ人は公立学校に行くことができないという環境にあって、両親や家庭教師らから厳格な指導を受けて育った。その才能は音楽にとどまらず、文学、絵画など多岐に渡ったという。メンデルスゾーンは作曲以外にも演奏家、教育者として活躍し、当時忘れられていたバッハの復活演奏(一方で同時代の作曲家の作品も多く取り上げている)、指揮者という役割を独立させ明確にし(それまではコンサートマスターやチェンバロ奏者が弾きながら合図をしていた)、音楽教育に尽力した(ライプツィヒ音楽院の設立)。どれも、現代に連綿と続く功績であろう。
 ところで、この序曲のタイトルである「真夏の夜の夢」は原題"A Midsummer Night's Dream"を直訳しているのだが、Midsummerとは夏至(6月下旬)のことで、日本人の真夏の感覚とはかなりズレがあることは既に指摘されている。また、劇中には「五月祭」という言葉もありタイトルそのものが内容に直接関係するというわけではないようだ。夏至前夜というのは、この劇で活躍する妖精たちが活発に動くと言い伝えられており、その暗示ということかも知れない。今回のプログラム表記では「真夏」としているが、今後「夏」が定着して行くと思われる。

〜劇のあらすじ〜
 結婚を間近に控えたアテネの公爵シーシアスの所に家臣イージアスが娘のハーミアを連れてきた。娘は父が決めたデメトリアスとの結婚を拒み、ライサンダーなる者と付き合っているのだ。アテネの法では父親の意見に従わない者は死刑。シーシアスは自分の結婚の宴までを猶予として「死罪・デメトリアスと結婚・修道院に入る」という選択肢を与える。
ハーミアは、それならアテネから逃げようと決心し、友人のヘレナに打ち明ける。そのヘレナはデメトリアスに好意を持ち、デメトリアスはハーミアに片思いという関係。ハーミアとライサンダーは駆け落ちのため森で落ち合う約束をし、ヘレナとデメトリアスはそれを追って行くのだった。
 アテネでは結婚の宴の準備中。職人のボトムたちが御前で劇をしようと計画、秘密の練習のために、森のあるところに集合することにした。
 森の妖精の国では王オベロンと王妃タイタニアが夫婦喧嘩の最中。オベロンは策を考えた。妖精パックを使い、まぶたに塗られると目覚めて最初に見た者に恋してしまう薬でタイタニアの関心を他に逸らしてしまおうと。オベロンは、人間界でも男女の問題があるから、森にいるアテネの男にも薬をつけてやれと命じる。
 パックは無事タイタニアに薬を塗ったはいいが、次のアテネの男が分からない。道に迷い眠っていたライサンダーを発見し薬をつけ、ついでに素人劇団のボトムの頭をロバに変えてしまう。するとタイタニアはそのロバ男に求愛し、ライサンダーは後から来たヘレナが好きになってしまう。混乱に慌てたオベロンは、パックにタイタニアとライサンダーの薬の効果を消すよう命じ、デメトリアスに惚れ薬を使う。
 翌日シーシアスが森に狩りに出ると、若者4人が上手い具合に恋人同士になっていた。
シーシアスはハーミアを許し、公爵の結婚式とともに4人の結婚式が行われ、職人たちの劇がこれを祝福したのだった。

T.O.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2009