ホルスト(Gustav Holst,1874-1934)はイギリス
を代表する20 世紀作曲家の一人である。祖先はロ
シアの宮廷作曲家、父はピアニストという音楽家の
家系に生まれた。彼はピアノ、オルガン、バイオリン、
トロンボーン等の楽器を演奏し、教会の合唱隊を指
導し、そして作曲をするという豊かな音楽の才能を
示した。前半生に紆余曲折はあったものの、1905
年、 女子校の音楽教師となってから作曲活動を本格的に
開始した。そして、34 年に亡くなるまで、合唱曲、
オペラ、吹奏楽、管弦楽、さらに映画音楽に至る広
い分野で多くの作品を残した。
その中で、最もよく知られたホルストの作品は「惑
星」であろう。「惑星」は3 年の歳月をかけて1916
年に完成。7 つの曲で構成されており、それぞれ占
星術にちなむ以下の副題が付けられている。
火星:戦いをもたらす者、金星:平和をもたらす
者、水星:翼のある使者、木星:快楽をもたらす者、
土星:老いをもたらす者、天王星:魔術師、海王星:
神秘主義者。
「惑星」に地球と冥王星が含まれていないが、地
球は占星術において惑星ではないため、冥王星は作
曲した当時未発見であったためである。(冥王星は
2006 年に惑星から準惑星に格下げされている。)
通常、オーケストラの演奏者は約70 名であるが、
「惑星」は管楽器と打楽器がほぼ倍に増やされ、約
100 名の大所帯となっている。ホルストは巧みな楽
器の用法により大編成のオーケストラを自在にあや
つり、多彩な響きを引き出している。本日演奏する、
「火星」と「木星」でも、ユーフォニウムや、6
台の ティンパニーが活躍する。
「火星」:不気味な5拍子の行進のリズム。暗雲の
ように遠くから響く角笛。半音階の戦いの旋律がぶ
つかり合う。破滅の叫びが耳をつんざき、勝者のい
ない虚しい戦いが終わる。
「木星」:前の曲とは対照的に、躍動的で明るい旋
律が次々に出てくる。そして、中間部では、達成感
と感謝に満ちた旋律がゆったりと演奏される。この
旋律は多くの歌手が歌詞をつけて歌っている。また、
TVCM のBGM にもしばしば登場する。ホルスト自
身は「I vow to thee, my country(祖国に誓う)」とい
う愛国的な歌詞をつけた賛美歌を作っている。後半
の歌詞が心に残ったので、拙訳を紹介する。
「理想の国は軍隊もなく、王もいない、国の砦は
信ずる心、国の誇りは苦難を耐える心、輝く国境は
魂から魂に静かに広まり、すべての道が優しさと平
和に満ちる国。」
アンダンテが終わると、アレグロの旋律に戻り金
管のファンファーレにより堂々と終わる。
A.T.