曲目紹介

ブラームス 「大学祝典序曲」


 この曲は1879 年、ブラームスがドイツのオーデ ル河畔にあるブレスラウ大学から名誉博士の称号を 授与し、その返礼として作曲したものである。初演 は1881 年1 月4 日、同大学にてブラームスの指揮 のもとに行われた。
 ブラームスは、祝典序曲として最初は威厳のあるも のか、あるいは輝かしいものを目論んだようだったが、 以前メルヘン街道沿いに位置するゲッティンゲンで、学 生たちと交流したときに教わったといわれる4曲の学生 歌をつなぎ合わせて、自由なソナタ形式の管弦楽曲を書 いた。オペラやオペレッタ(喜歌劇)の序曲が、大抵オ ペラ中に出てくる各旋律(アリア、合唱等)を接続した 曲であるように、大学祝典序曲も4つの独立した旋律を 接続した「序曲風の」管弦楽曲である。
 1曲目は、序奏の後、ティンパニのロールに導かれ てトランペットが静かに朗々と歌う"Wir hatten gebauet ein stattliches Haus"(僕らは立派な学び舎を建てた)。歌 詞はその校舎の中で日々たゆまぬ努力を促すもので、音 楽も荘厳な調子である。
 2曲目は、流麗な旋律がセカンドヴァイオリンと木 管によって奏でられる"Landesvater"(祖国の父)。その 美しさと裏腹に、時代を反映した歌詞は「国家のために 殉ぜよ」という内容である。
 3曲目は、ファゴットが軽快に、ユーモラスに歌う "Das Fuchslied"(新入生の歌)。ドイツで新入生を歓迎 して歌われるこのテーマは、ラジオの文化放送等の大学 受験ラジオ講座のテーマ曲に使われていたこともあり、 耳にした方も多いのではないだろうか。
 4曲目は、最後を全管弦楽で賑やかに演奏される "Gaudeamus igitur"(ラテン語で「いざ楽しまん」)。歌 詞も青春時代の愉しさを謳歌する内容で、輝かしいフィ ナーレが築き上げられる。
 ブラームスは序奏主題を巧みに操り、学生歌からの 適切な旋律にふさわしい和声や対旋律をつけることに よって、4つの各旋律を繋ぎ合わせ傑作に仕上げた。親 しみやすい旋律に重厚なオーケストレーションを施すこ とによって、陽気で楽しい中にもアカデミズムの威厳を 感じさせる。一方で、ブラームスは毒舌やブラック・ユー モアで有名であり、「学生の酔いどれ歌のひどくがさつ なメドレー」を作って『大学祝典序曲』と名づけ、自分 の任務を果たしたのだと語っている。

Y.F.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2008