曲目紹介

スメタナ 連作交響詩 「わが祖国」より「 モルダウ」


 ベトルジハ・スメタナ(1824 .1884)はチェコ スロバキア出身の作曲家で、ビールの醸造技師の息 子として生まれた。19 世紀初頭までチェコはオース トリア帝国の支配下にあり母国語も禁じられ屈辱的 な迫害にあっている。そんな中で彼は6つの曲から 成る連作交響詩「わが祖国」を5 年かけて1879 年 に完成した。「モルダウ」はその2 曲目である。流 行の梅毒で耳が聞こえなくなり始めた絶望感の中で、 彼は強い愛国心と、音楽への情熱とで精魂込めて作 り上げたのである。彼が最も愛してやまないこの曲 は、1882 年プラハで初演され大好評を博したが、 彼には実際の音として全く聞こえてはいない。
 スメタナはチェコの風土・歴史を明確に音楽に現 した最初の作曲家即ち、チェコ国民楽派の開祖とし て大作曲家ドボルザーク(1841 .1904) に大きな影 響を与えた。歌劇「売られた花嫁」は今でも頻繁に 世界中で公演される。
 1866 年スメタナは念願の仮劇場(後のチェコ国 民劇場)オーケストラの首席指揮者に就任し、そこ のヴァイオリン奏者の招きでプラハから100 キロ離 れた南ボヘミアの森林地帯へ旅をする。
 そこで初めて観るモルダウ河の二つの源流、 ヴィドラ川とクシュメルナー川が合流する言葉に ならない絶景の中で「モルダウ」の構想を得たと される。
 曲は8 つの部分から構成される。

1. モルダウの最初の源流
 雪が溶けて流れ始める様子が2 本のフルートで始 まる。2 番フルートのソロに1 番フルートが加わる が、まるで1 本で吹いているように聞こえていただ けるであろう。。

2. モルダウの第二の源流
 次にクラリネットが加わって水に暖かさが加わ り、徐々に楽器が増えて川の流れが出来あがる。そ こで弦楽器により、最も有名なモルダウ河の主題が 提示される。この曲は日本で合唱曲にも編曲され誰 もが耳にしたことのある、人の心を掴む名曲である。

3. 森〜狩
 流れは森に入っていく。欧州では自然と狩は森つ ながりで切り離されない。ベートーヴェンの「田園」 など、狩の情景といえばホルンが良く使われる。し かしこの曲は音域が低く、ブレスが取れる休符が殆 ど無いのでキツイのである。(筆者はホルン)

4. 村の婚礼
 村の集落が見えてきた。若者2 人の結婚式があり 教会から出てきた2 人を村人たちがフォークダンス で祝福している。

5. 月の光〜水の精の踊り
 結婚式の夜も更け、あたりは静寂。ファゴットと オーボエの先導で水の精が登場し木管がまた、冒頭 の流れを奏し、また弦でモルダウ河の主題が再現さ れる。

6. 聖ヨハネの急流
 傾斜が急になり流れが速くなる。岩にぶつかり 激しく水しぶきを上げる。

7. モルダウの力強い流れ
 曲は短調から長調に転調。河はプラハ市内に入る。 オケ全体でのテーマ演奏となる。

8. ヴィシュフラド(高い城)の主題
 河は古城に最大の敬意をもって挨拶をする。曲は 流れを見送るようにフェードアウトして終わる。ス メタナは今、自分の愛するモルダウ河とこの古城の すぐ近くの墓地に静かに眠っている。

S.S.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2008