ベートーヴェンのシンフォニーといえば、第3番『英雄』
や第5番『運命』、そして第9番『合唱付き』が有名で
あり、第4番というとどうしてもマイナーな印象がある。
耳にされたことがない方も多いのではないだろうか。
よく用いられる表現だが、シューマンがこの第4番を
「2人の北欧神話の巨人の間にはさまれたギリシアの
乙女」と例えたと伝えられている。この「2人の北欧
神話の巨人」とは、交響曲第3番と第5番のことであ
るのは言うまでもない。
「乙女」という例えが当てはまるかは指揮者・演奏、
または聞く者によって相違するところであろうが、
交響曲第4番は他のベートーヴェンの交響曲が持つ荘厳、
壮大なイメージとは異なり、明るく軽やかで華やかな、
そして抒情的な印象を与えるシンフォニーであり、
ベートーヴェンの柔和で平静な側面を最も美しく浮き
彫りにした作品の一つである。
ベートーヴェンは20歳代後半頃より難聴が徐々に
悪化し、ついには殆ど何も聞こえない状態に陥って
しまう。音楽家として聴覚を失うという死に等しい
絶望感から、彼は1802年には自殺も考えた。
しかし「ハイリゲンシュタットの遺書」と呼ばれる
文書を書き、音楽家としての人生を全うするという
強い覚悟をもって自らの苦悩と向き合い、新しい芸術の
道へと進んでいくことを決意したベートーヴェンは、
その後自らの創作活動において「傑作の森」(作家ロマン・
ロランによる命名)と呼ばれる絶頂期を迎えることと
なる。
1804年に奇跡とも評される交響曲第3番を完成
させた後、10年間にわたって歌劇『フィデリオ』、
ピアノ協奏曲第4番、ヴァイオリン協奏曲、ラズモ
フスキー弦楽四重奏曲、ピアノ・ソナタ第23番『熱情』
など、中期を代表する傑作の数々を生み出した。
第4番もこうしたベートーヴェンの絶頂期に書かれた
作品であり、1807年頃完成した。
第1楽章 Adagio 4/4拍子〜 Allegro vivace 変ロ長調
2/2 拍子
ソナタ形式。暗く静かな序奏は非常に特徴的。主部に入る
と緊張感を開放し、一転して軽快な音楽が続く。アレ
グロの速度感、快活さによる醍醐味を感じさせてくれ
る楽章である。
第2楽章 Adagio 変ホ長調 3/4 拍子
ソナタ形式。展開部を欠いた変則的な緩徐楽章である。
クラリネットにより表現される、優美で息の長い旋律が
特徴的。
第3楽章 Allegro vivace トリオ(中間部)はUn poco meno
Allegro 変ロ長調 3/4 拍子
複合三部形式。全体は複合三部形式ではあるが、そ
のあとでトリオ全体と縮小された主部が繰り返される、
大規模な構想のスケルツォとなっている。主部とトリオ
との曲想のコントラストが印象的である。
第4楽章 Allegro ma non troppo 変ロ長調 2/4 拍子
ソナタ形式。活気に満ち溢れ疾走するかのような躍
動感を持つ16分音符の速い旋律が全曲を駆け回り、
華やかでありながら爽やかなクライマックスへと到達
する。ファゴットによる主題の再現は難所。
N.S.