作品36はチャイコフスキーが36〜37歳の頃に作
曲されました。 1876年(36歳)に富豪の未亡人ナジェジダ・フォン・
メック夫人から資金援助を受けることとなり、経済
的な余裕が生まれ、作曲に専念できるようになりま
した。そこで、夫人へのお礼として第4番を献呈し
ようと考え、作曲に着手しました。 作曲中の1877年当時、ロシアとトルコで戦争が
始まっており、チャイコフスキーはその戦争に強い
関心を持ち、彼の心には「戦争と運命」が重く圧し
掛かっていました。チャイコフスキーは、戦争につ
いてまず多数の人命の犠牲に思いを馳せ、これを恐
るべき「わざわい」として、また避けがたいものと
して苦しみました。 また同年、17歳年下の教え子に半ば押し切られる
ように不本意な結婚させられてしまいますが、短期
間で破局を迎え、チャイコフスキーは冬の冷たいモ
スクワ川で入水自殺未遂事件を起こしてしまいます。
このような環境の中で作曲が進められた第4番は、
逃れることのできない運命に対しそれを克服しよう
とする民衆の力を描くストーリーになっています。
各楽章の説明はチャイコフスキー自身がメック夫
人に宛てた手紙から抜粋します。(『』括弧内が作曲
者自らの言葉です)
第1楽章 Andante Sostenuto-Moderato con anima (ヘ短調)
『これは運命です。これは目的をとげようとする
幸福への衝動を妨げる運命の力であり、それは幸せ
と平安とがみちあふれ晴れ渡らないようにと、嫉妬
深く看視している力であり、それはダモクレスの剣
のように頭上にふりかかり、しかも頑として動かず
に常に魂をさいなむ運命の力です。』 「運命の主題」と言われる冒頭のファンファーレ
に続いて、ワルツのリズムで第1主題が始まります。
途中、優雅なメロディーの第2主題が現れ、最後に力
強くこの楽章は終わります。チャイコフスキー自身、
第1主題について「なぐさめのない絶望的な感じ」と
表現し、第2主題について「現実から離れた幻想」と
表現しています。
第2楽章 Andantino in modo di canzona (変ロ短調)
『第2楽章は哀愁のもうひとつの相を表現してい
ます。それは、仕事につかれ、ただひとり座り、
そして本をとりあげたがその本が手からすべりお
ちたという夕暮れにあらわれるメランコリーの感
じです。』 オーボエで奏される第1主題は平安であるが、い
くらか冷淡さもみられます。中間部の主題は抑制
されているが、はっきり表出された感情のアクセ
ントを持っています。そして第1主題が再現され、
最後はファゴットのソロで消えるように終わりま
す。全体としてこの楽章は戦争ではなくて、平和
の静かな感傷が描かれています。
第3楽章 Scherzo: Pizzicato ostinato (ヘ長調)
『第3楽章は一定の感情を表現していません。そ
れはカプリース的アラベスクであり、少しばかり
酒を飲んで酩酊の最初の段階を経験したときに頭
の中に浮かんでくるとりとめのない諸形象です。』
この楽章のスケルツオは終始、弦のピチカートで
奏されます。 中間部のトリオでは木管がおどりのふしのような
メロディーを奏で、次に金管による軍楽隊のよう
な音楽になります。
第4楽章 Allegro con fuoco (ヘ長調)
『あなた自身のなかに喜びのための動機が発見で
きないならば、他の人々をごらんなさい。民衆の
なかにはいりなさい。民衆はひとつになって喜び
の感情に浸りながらどんなに楽しむことができる
かごらんなさい。』 木管と弦の激しい序奏ではじまり、続いて「野に
白樺は立っていた」というロシア民謡の主題がで
ます。この「白樺」の主題は、力強い民衆の力を
表していて、「運命」の力と対抗するかのようで
す。結尾では、嵐のようなシンバルとともに激し
い終結へと急ぎ、「白樺」の主題で盛大に幕を閉じ
ます。
K.S.