曲目紹介

サン=サーンス 交響曲 第3番 ハ短調 作品78「オルガン付き」


カミーユ・サン=サーンス(1835〜1921)は前述のモーツァルト同様、2歳でピアノを弾き、3歳で作曲し、10歳で演奏会を開き、16歳で初めての交響曲を作曲したという、いわゆる「神童」タイプでした。しかも、音楽家として、ピアニスト、オルガニスト、作曲家の3足のわらじで活躍しただけでなく、様々な分野(詩人、天文学者、数学者、画家等)に才能を発揮する天才肌だったようです。特に詩人としての活動は多岐にわたり、彼が作曲した声楽・合唱作品のほとんどは彼自身の詩によるものだそうです。
当時フランスは劇場音楽が全盛でしたが、彼はベートーヴェンに傾倒し、古典様式による純器楽作品を書いたり、またワーグナーにも影響を受け、ドイツ音楽に対抗してフランス音楽の地位を確立するためにフランス国民音楽協会を設立したりして、近代フランス音楽の基礎を築いた功労者とされています。この曲は英国フィルハーモニー協会の委嘱で作曲され、1886年に完成されました。彼の番号つきの交響曲としては3番目、番号なしを含めれば5番目の交響曲となります。この曲は恐らく彼の生涯における集大成といっても過言ではないでしょう。本人も「この曲には私が注ぎ込める全てを注ぎ込んだ」と述べているように、曲中には彼自身の名人芸的なピアノの楽句や、華麗な管弦楽書法、教会のパイプオルガンの響きがぎっしりと詰め込まれています。
この曲の最も独創的な特徴は、各所に織り込まれた、ピアノと、なんと言ってもオルガン、という2つの鍵盤楽器の巧妙な用法と言えるでしょう。曲の構成は2楽章構成になっていますが、それぞれ2部に分かれており、通常の4楽章構成を圧縮したような構造となっています。また、楽曲全体を通して共通の主題や旋律的要素を登場させるいわゆる循環主題技法を用いることにより、全体として統一感のある重厚な構成を形作っています。いろいろな表情を持った曲想が全楽章を通して流れるように展開され、オルガンやピアノも相俟って、劇的かつ印象深い傑作となっています。
なお、この曲の初演は1886年5月19日にロンドンにてサン=サーンス自身の指揮で行われ大成功を収めています。

第1楽章
(第1部) Adagio - Allegro moderato
弦楽器が紡ぎ出す静寂の中からオーボエやフルートの旋律が浮かび上がる神秘的な序奏部に続き、不安げな第1主題が弦楽器から木管楽器へと広がります。この半音階を中心とした精緻な音列がこの曲全体を通して現れる主題です。この主題を散りばめつつ旋律が展開、発展していき、それに金管楽器も加わって前半のクライマックスを形作ります。やがて潮が引くように徐々に静寂を取り戻し、その後2本のホルンがオルガンを思わせる低音を奏でますが、やがて本物のオルガンに移り変わります。
(第2部) Poco adagio
この楽部は全曲中で最も美しい部分といって良いでしょう。オルガンの静かな和音に導かれて弦楽器が祈るような賛美歌的な旋律を奏します。それが管楽器に移って穏やかなサウンドを奏で、続く変奏は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンによる、静かな水面が少しだけ波だったような神秘的な掛け合いとなります。途中で第1部を思わせる不安げな主題が再び忍び寄ってきますが、オルガンの優しい和音に諭され、やがて先程の弦楽器の甘美な旋律の中に融和し、終結に向けて徐々に浄化していきます。

第2楽章
(第3部) Allegro moderato - Presto

この楽部はいわゆるスケルツォに相当します。情熱的な主部では、弦楽器群、管楽器群、ティンパニが激しい対話を繰り広げます。ここでも、第1楽章に現れた主題が見え隠れします。中間部のプレストは木管とピアノがめまぐるしく、また華麗に活躍します。そして優雅な旋律が奏されたのち一旦急激に完結し、再び主部が再現されます。その後2度目の中間部に入ると新たな主題が低音楽器に登場し、これが第4部への布石となります。巧妙に盛りあがったのちまた静けさを取り戻し、弦楽器の澄みきった旋律のあやとそこから導かれたオーボエのソロがフィナーレを導き出していきます。
(第4部) Maestoso - Allegro
オルガンがハ長調の和音を最大の音量で高らかに響かせ、第3部で先立って登場した低音の主題が呼応して壮大なフィナーレの幕開けとなります。その後、弦楽器とオルガン、そして4手連弾のピアノが幻想的かつ前衛的な響きを奏でます。今まで不安げであった主題が長調に昇華し、時には優雅に時には高らかな響きのファンファーレとなって現れ、様々な旋律を散りばめながら展開していきます。再び不安げな主題が現れ、昇華した長調の主題との揉み合いが繰り返されながら管弦楽によるファンファーレに鮮やかに発展し、最後はオルガンとオーケストラが一体となり、壮麗な音の大伽藍の中で全曲が締めくくられます。

S.S.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2006