曲目紹介

シベリウス  交響曲第2番 ニ長調 作品43


 ヤン・シベリウス(Jean Sibelius)は1865年に生まれ、1957年にその92年の生涯を閉じた。東芝フィルでメインに取り上げられた作曲家では第19回のショスタコーヴィッチと並び新しい20世紀の作曲家である。
 19世紀頃、シベリウスの祖国フィンランドはスウェーデンと帝政ロシアとのいずれかの支配下に置かれ続けた歴史があり、シベリウスの生きた時代には当初ロシアの独裁政治下にあった。しかし、第一次世界大戦などの変動のなか民族自立の運動が高まり、1917年に国家の独立を勝ち取ったのである。このような時代背景の中、シベリウスの音楽の一部は民族自立の精神の象徴となっていた。有名な「フィンランディア」は愛国心を音楽で宣言するものとして作曲され、当時の独立運動の象徴となったもので、フィンランドの第二の国歌と呼ばれている。
 本日演奏する交響曲第2番は、1901年に書き始められたが、全体に暖かな、伸びやかな雰囲気をもっている。その理由の一つとして、その年にイタリアへ旅行をし、南欧の明るい太陽、穏やかな生活を堪能したことがあると言われている。しかしこの第2番にも民族自立への強い意志が込められており、第四楽章では明快で力強い主題が全てを克服して晴れやかに曲を閉じる様が、帝政ロシアの支配下からもうすぐ開放されることを確信させるものとして初演でも熱狂的な成功を収めた。

 第一楽章(アレグレット)は弦楽器がさざ波のように奏でるメロディともリズムともとれる単純な音形の主題で始まる。実に四分音符だけが11個並んでいる!続く木管の主題は民謡調の躍動感のあるメロディである。この楽章はこれらの断片的な主題でモザイク画のように組立てられている。金管の眩しいコラールで盛り上がったと思うと、断片を再現しながらさらりと終わってしまう。

 第二楽章(テンポ・アンダンテ・マ・ルバート)は一転して暗がりに舞台が変わる。ティンパニにつづくコントラバスとチェロのピチカートは夜の森の中で語られるひそひそ話のようである。この上にファゴットのモノローグが現われ、次第に楽器が増えると音楽は急速に拡大し、大蛇が暴れるようなオーケストラの巨大なうねりに発展する。最後は嵐が収まり行く中、弦楽器のピチカートが何かの意志を表わすかのように強く弾かれ曲を閉じる。

 第三楽章(ヴィヴァーチシモ)は弦楽器の荒々しいリズムで始まり、この上に木管の旋律が加わる。激しく盛り上がった後に突然の休止が現われ、穏やかなトリオ部分に入る。オーボエによるトリオの主題は第一楽章冒頭の四分音符の連続した音形の変形である。再び冒頭の荒々しいリズムが現われ音楽が繰り返されて再度この穏やかな調べが現われるが、今回は音階的進行と加速により音楽を拡大し、そのまま第四楽章に突入する。

 第四楽章(アレグロ・モデラート)は第三楽章から登り詰めて来た高い頂きに立ち、広い視界に伸びやかで雄大な音楽を奏でる。初めの弦の主題は単純な「ドレミ・シドレ・ド」というものだが、次第に形を変えながら北欧の森林風景を鳥瞰するように広がる。この調べの背後にコントラバス、テューバがひたすら繰り返し続ける音形はフィヨルドに打ち寄せ砕ける波のようである。途中音楽はチェロとヴィオラが綿々と奏でる呪文のような音楽でやや陰りを見せる。二度目にはこの呪文に木管のユニゾンも加わり強まるが、強い意志を秘めた主題が粘り強く対抗し続け、最後にヴァイオリン、チェロ、トランペットによって長調に転じて終曲に入り、冒頭のテーマの変形を金管が全奏しニ長調のさわやかな光の中に曲を閉じる。

F.M.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2005