曲目紹介

ワーグナー  歌劇「ローエングリン」第1幕、第3幕への前奏曲 WWV. 75


  13のオペラ作品を作り上げたワーグナー。"物語"が"音楽"と密接に関わりあう彼のオペラ作品では、"音楽"が我々を"物語"の奥深くへと誘い込んでしまう。本日演奏する「ローエングリン」は彼の6番目のオペラ作品であり、中でも最も美しい"音楽"を持つ作品であろう。
 ローエングリン伝説は、元は中世の詩人ヴォルフラムの「パルチヴァル」に登場する話である。ワーグナーはこれを基礎とし、グリム兄弟の「ドイツ神話集」などの素材も参考にし、見違えるような戯曲を作り上げた。
 時代は10世紀半ば、場所はアントワープ。亡きブラバンド公の姫君エルザが、弟殺しの濡れ衣を着せられるが、はからずも白鳥の騎士から助けられる。素性を尋ねないという約束の下にエルザは騎士と結婚するが、約束に背いて騎士に素性をたずねたため、騎士は、聖杯グラール守護役ローエングリンという素性を打ち明けて去り、エルザは悲しみのうちに息絶える、という運びの作品である。
 「ローエングリン」は3幕から成っており、本日演奏するのはその第1幕および第3幕の前奏曲である。
 弦、木管の高音で奏される天国のような響きで始まる第1幕前奏曲は、一貫して聖杯の神々しさを醸している。この《聖杯の動機》は弦に始まり、木管、金管へと引き継がれ力強く奏された後、再び弦により静かに終わり、これから始まる白鳥の騎士の物語の神々しい雰囲気を作り上げている。
 爆発的な《歓喜の動機》で始まる第3幕前奏曲は、この幕の最初の場面であるエルザと白鳥の騎士の結婚式へ向けて、盛大な雰囲気を導き出している。金管による力強い主題と、中間部の弦と管の優美な動きが、我々を華やかな結婚の舞台へと導いてゆく。
 白鳥の騎士という崇高で神秘的な存在、盛大な結婚式でのエルザと白鳥の騎士の登場への期待感。本日演奏される2曲をそのようなイメージを浮かべて聴いてみるのはどうであろうか。"音楽"が心の中に描いた"物語"をいっそう深みのあるものにしてくれることであろう。

M.T.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2005