曲目紹介

モーツァルト 交響曲 第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」


 モーツァルトは個性的な交響曲を数多く作曲しましたが、ウィーン在住時代の6曲はいずれも古典派交響曲を代表する傑作に数えられており、その中で最初に作曲されたのが「ハフナー交響曲」です。この交響曲の原曲は1782年7月末、モーツァルトの父レオポルトが親しく交際していたザルツブルクの富豪ハフナー家の子息の爵位授与式のために、6楽章のセレナードとして作曲されました。モーツァルトは1776年、ハフナー家の令嬢の結婚式のためにセレナードを作曲しており、これが「ハフナー・セレナード」ニ長調K250と呼ばれているため、1782年に作曲されたセレナードは「第2ハフナー・セレナード」ともいわれています。
翌1783年春、モーツァルトは自分のアカデミー(予約演奏会)のための新しい交響曲が必要になったため、レオポルトから「第2ハフナー・セレナード」の自筆譜を返送してもらい、改作にかかります。改作といっても6楽章のセレナードからメヌエットの1曲と行進曲を取り除き、4楽章の交響曲が出来上がったのです。原曲のセレナードがそれだけ音楽的に充実していたわけで、これに驚いたモーツァルトは父に次のように手紙を送っています。「新しい『ハフナー交響曲』は、僕を全くびっくりさせました。それについてはもう言うべき言葉もない位です。これはきっと大成功を収めるに違いありません。」
初演は1783年3月、ウィーンのブルク劇場でモーツァルト自身の指揮で行われました。皇帝ヨーゼフ2世も臨席したこの演奏会は大成功を収めました。

第1楽章 アレグロ・コン・スピーリト ニ長調 2分の2拍子 ソナタ形式。
 冒頭の第一主題は、鋭いアクセントが付けられたオクターブの跳躍と、続く行進曲調のリズムから成りますが、これは祝祭の開始を告げる意気軒昂たる気分にあふれています。モーツァルト自身、「まさに火のように激しく」と父への手紙に書いた楽章で、単一主題の対位法的な展開で推進される音楽です。そこにはハイドンの影響とバッハ体験を彼独自の個性の中で見事に同化させたモーツァルトの生気あふれる交響曲の書法が伺えます。

第2楽章 アンダンテ ト長調 4分の2拍子 ソナタ形式。
 18世紀の貴族のサロンを思わせる優美な緩徐楽章です。管楽器はセーブされて室内 楽的なきめこまやかさを演出しています。

第3楽章 メヌエット ニ長調 4分の3拍子。
 主題は力強い分散和音の上昇で開始され、逆付点のリズムが優美な下行でそれに応え ています。小規模ながら、ウィーン風の典雅な趣のあふれた魅惑的なメヌエットです。

第4楽章 プレスト ニ長調 ロンド・ソナタ形式。
 ウィーン時代のモーツァルトは、ロンドとソナタという2つの形式を絶妙に融合させた作品を好んで書きました。第一主題は、この頃ちょうど初演されたばかりの歌劇「後宮からの誘拐」のオスミンのアリアの旋律に基づいています。 ともかく、この「ハフナー交響曲」は、既に円熟し大家の域に達していたモーツァルトが、なおも新しい交響的表現に挑戦した意欲作と言えるでしょう。作曲したモーツァルト自身が音楽的な充実ぶりに驚いてしまった程の名曲を、我々も楽しんで演奏したいと思います。聴いていただくお客様にもお楽しみ頂ければ幸いです。

R.M.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2003