シューベルト(1797?1828)は幼いときから優れた学才を持っておりましたが、教会で学んだほかは正規の音楽教育を受けず、ウィーンで少数の友人と共にボヘミヤン的生活を送って31才の若さでこの世を去りました。「野ばら」や「菩提樹」など歌曲の面に優れた作品を残している彼は、また、室内楽や交響曲にも数々の名作を残しています。
天才の真価は死後に認められることが多いのですが、彼もその例にもれませんでした。初演以来人々の深い感銘を呼び潮の如く全世界に広まっていったものです。
「未完成」という名の云われは、第3楽章の初めが書きかけのまま中断しているところから後世の人によって名付けられたものです。このため種々の推測が音楽史家によってなされ、未完にまつわる様々な物語が伝えられてきましたが、未だに解くことのできぬ謎として残っております。一つの憶測として第1楽章と第2楽章が形式的にも感情的にも互いにしっかりと手を結びあい、これにどのようなスケルツォやフィナーレをつけても、かえって無用の長物になるということを、天才の直感によって知ったからではないかといわれております。或は「わが恋の終わらざるが如く、また、この曲も終わらざるべし」と書き残して寂しくハンガリアを去る往年の名画「未完成交響楽」は真実であったかも知れません。
さて、内緒話として、昨年東芝のとある事業所の室内学部では団存続のための全員合奏として15名でこの曲を演奏し未完成に終わったとか・・・。ともかく本日は、美しく幻想的な雰囲気をかもし出すことを意識し、完成?された未完成?を演奏致します。
第1楽章 アレグロ・モデラート ロ短調 4分の3拍子
初めに、名指揮者ワインガルトナー「あたかも地下の世界のように」と形容した低音弦楽器の暗示に富んだ旋律が響き出します。この旋律は曲全体を形造る重要なモチーフです。ついでヴァイオリンの刻むリズムと低音弦のピッチカートにのってオーボエとクラリネットが唱う「天国からの音楽」と言われている第1主題が奏でられます。やがてチェロによる第2主題が現れ、これはヴァイオリンにうけつがれ最強となります。ここから展開部に入り、最後にもの淋しい和音によって1楽章を終わります。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート ホ長調 8分の3拍子
この楽章にも第1楽章の初めの動機がいたる所に出てきます。この楽章はシューベルトの溢れんばかりの旋律と美しい転調によって構成され木管と弦楽の巧みな楽器の組み合わせによって独特な色彩的効果を現しています。ことに最後の大波のうねりのような余韻は多くの人々の共感を呼び起こすことでしょう。
M.S.