この曲はチェコの作曲家ドヴォルザーク(1841〜1904)が、ニューヨーク国民音楽院院長としてアメリカ滞在中に作曲したことから、"Z NOVEHO SVETA"(新世界より)の副題がドヴォルザーク自身によって添えられています。初演は1883年、ドヴォルザークのアメリカでの第一作として、広範な注目を集めながらアントン・ザイドル指揮のニューヨーク・フィルの演奏でミュージックホール(後に改築され、カーネギーホールと改称された)に於いて行われ、空前の大成功を収めました。アメリカに滞在した二年半の間にはこの交響曲第九番の他に弦楽四重奏曲第十二番「アメリカ」、弦楽五重奏曲第三番、チェロ協奏曲など、多くのドヴォルザークの代表作が生み出されています。ドヴォルザークが「自分が、もしアメリカを訪ねなかったとしたら、こうした作品は
書けなかっただろう」、「この曲(交響曲第九番)はボヘミヤの郷愁を歌った音楽であると同時にアメリカの息吹に触れることによってのみ生まれた作品である」と語っているように、ボヘミヤ国民楽派としてのドヴォルザーク独自の発想と渡米によって得られたアメリカ的な語法の融合がこれら名曲に大きな魅力を与えていると言えるでしょう。
また、交響曲第九番を非常に有名にした第二楽章のラルゴの楽想はロングフェローの叙事詩「ハイアワーサ」から着想を得たと言われていますが、その主題は弟子のフィッシャーによって歌曲に編曲され、「家路」として有名になってしまったために、ドヴォルザークがアメリカの歌曲から引用したのではという誤解を招いたといったエピソードが残っています。
第一楽章 序奏-アダージョ 主部-アレグロ・モルト ホ短調
序奏はチェロの深く沈んでいくような旋律によって始まる。徐々に緊張を高め主部、アレグロ・モルトへと導かれていく。主部では第一主題が雄然とホルンによって示され、フルートとオーボエの中間主題を経て、第二主題がフルートによって示される。展開部では第二主題と第一主題が交互に形成され進み、再現部を経て力強く始まるコーダへと続く。
第二楽章 ラルゴ 変ニ長調
神秘的な序奏で始まり、コール・アングレによる美しいメロディが続く。このメロディを聴くと私は小学生の頃の下校時をいつも想い出します。
第三楽章 モルト・ヴィヴァーチェ ホ短調
三拍子の農民の踊りを思わせるスケルツォがはじめに木管楽器で奏でられる。旋律的な二つのトリオをはさんで、スケルツォが繰り返される。コーダでは第一楽章の第一、ニ主題を回想する。
第四楽章 アレグロ・コン・フォーコ ホ短調
激しい序奏に先導されてトランペットとホルンによる力強い第一主題が登場し始まる。第一主題とは対照的にクラリネットの優しい第二主題が続き、各楽章の主題が次々に現れながら、活気ある終楽章を盛り上げていく。やがてそれらの主題が渾然一体となり、展開部から壮大なコーダへと収束していく。最後は静かな余韻を残し全曲が結ばれる。
K.S.