このオペラはワーグナーにとっての出世作で、1840年の11月に完成し翌年の10月ドレスデンで初演された。この初演はオペラ史上、最も大きな成功を収めたものの一つである。このオペラはきわめて長大であるにもかかわらず、マイヤーベーア=スポンティーニ風の華麗で強烈な劇的効果が、ウェーバーに始まるロマン主義的な感情と結びついて、聴衆を熱狂的な状態にまで興奮させた。聴衆に劣らず、歌手たち、オーケストラ、老マエストロ、フィッシャー率いる合唱、そして、反応をあまり表に出さないタイプの指揮者ライシガーまでも熱狂した。ワーグナーが、6時間もかかったオペラのカットを試みた時、テノールのティヒャーチェックがカットを拒否してこう言った。「私は1音たりとも削らせない・・・あまりにも崇高なのだ!」彼だけではなかった。アドリアーノ役を男装で見事に演じた素晴らしいヴィルヘルミーネ・シュレーダーも含めて、他の歌手たちも皆同様の意見だった。
主人公のコラダ・リエンツィ(1313〜1354)は実在の人物で、ローマに生まれた愛国者であった。彼は常に民衆のために貴族と闘ったが、非業の最期を遂げたといわれている。このオペラのテーマとなっているのは、反権力的な思想で、こうしたところはいかにも、若い熱血漢だったワーグナーらしい。
序曲はまずリエンツィが、民衆に革命を呼びかけるトランペットの動機から始まる。次いでリエンツィの祈りの歌「全能の天よ、護りたまえ」が奏され、ソナタ形式の主部にはいる。リエンツィの雄叫び「聖なる魂の騎士」、彼の娘とその恋人の二重唱「慈悲への感謝の歌」が、主題として用いられ華やかに展開されて行く。
<第一幕>
貴族ステッファノ・コロンナの率いる一団がリエンツィの妹イレーネを略奪しようとしている。コロンナの息子アドリア-ノがイレーネを救い出す。事態に驚き暴走した民衆をリエンツィが鎮め、古代ローマの自由と平和と法秩序再建を呼びかける。リエンツィは、護民官の称号を受け入れる。
<第二幕>
貴族たちは、やむなく新秩序を受け入れるが、他方では、権力奪回のため、密かに護民官暗殺を企む。リエンツィはイタリア同盟樹立を宣言、神の名のもとに、教皇を後ろ盾とする神聖ローマ皇帝の支配権を覆そうとする。祝典の余興として、バレエが演じられクライマックスに達したところで、暗殺者がリエンツィを襲う。だが陰謀は失敗に終わる。リエンツィは貴族たちを助命し法秩序の厳守を誓わせるが、元老院と貴族たちの敵意に直面する。
<第三幕>
再び誓いを破った貴族たちは、軍勢を率先してローマに攻め寄せる。リエンツィは市民軍を率いて出陣し、勝利を収めるが、戦死者も多数に上る。父とリエンツィを和解させようとしていたアドリアーノはリエンツィと決別し、彼を呪う。
<第四幕>
大きな犠牲に加え、貴族と教会が新たに秘密協定を結んだことが明らかとなり、民衆の心はリエンツィから離れる。リエンツィは教会から破門される。
<第五幕>
リエンツィは、彼の始めた大事業が破綻することなく、民衆が目覚めることを、神に祈るが期待を裏切られ今やリエンツィを敵視する民衆が投げつける石の中で、リエンツィとともに古代ローマの理想も滅び去る。
Y.K.