曲目紹介

シベリウス:「フィンランディア」



 ジャン・シベリウスは1865年12月8日、フィンランドの内陸都市ハメーンリンナで生まれました。シベリウスは5歳の頃からピアノに興味を持ち、7歳の頃から叔母のレッスンを受け始め、やがて作曲を試みるようになります。14歳の年にヴァイオリンを買い与えられるやいなや、たちまち室内楽に熱中するようになりました。その後ヘルシンキ大学にて法律を学ぶ傍ら同地の音楽院の選科生としてヴァイオリンと作曲法を学びますが、1年後には音楽に専念します。音楽院卒業後、留学先のウィーンにて着想した<クッレルヴァオ交響曲>が祖国で大成功を収めた頃から作曲家としての軌道に乗り始めたようです。
 本日演奏致します<フィンランディア>は1889年に作曲されました。当時のフィンランドはロシアの属領化策が強引に推進されたため、民衆による愛国独立運動がさかんに行われていました。この運動の一環として新聞人たちによる民族的歴史劇「歴史的情景」(全6景)の上演が計画されますが、劇の音楽をシベリウスが担当することになります。後に劇の最終場面である、「フィンランドの目覚め」のための音楽が独立し、<フィンランディア>と呼ばれる交響詩となりました。
 <フィンランディア>はアンダンテ・ソステヌートの序奏で始まります。まず金管楽器の奏でる、重々しい「困難のモティーフ」で開始され、この悲劇的なモティーフを受けて木管と弦楽器に民衆の悲観を象徴するような旋律が奏でられますが、その後半は次第に激しく盛り上がり、やがて決然たる曲調に転じ、アレグロ・モデラートの序奏に入ります。次にティンパニと金管群で「闘争への呼びかけのモティーフ」が鋭く打ち鳴らされ、始めの「苦難のモティーフ」が続きますが、弦楽器の中に跳躍的な音型が沸き起こります。やがて「闘争の呼びかけ第二のモティーフ」が低音楽器から力強く奏でられると突然高揚力強い主部に入ります。ここでは「闘争への呼びかけのモティーフ」と「勝手に向かうモティーフ」が織り込まれます。その後クレッシェンドで山を築いたのが引くように遠ざかると、木管楽器から弦楽器につながる賛歌ふうの美しい旋律が奏でられます。この美しい旋律は1938年に歌詞がつけられ<ファインランディア賛歌>として現在フィンランドの準国歌のように愛唱されています。美しい賛歌が二度奏でられた後、再び二つの「闘争のモティーフ:と「勝利に向かうモティーフ」が現れて曲を一気に高めますが、今度は同じモティーフが曲の高揚をあおり、終末のクライマックスの中に「フィンランディア賛歌」となった旋律の一部を金管楽器で高らかに奏でて力強く終止を導きます。
 <フィンランディア>としての独立国での初演はパリの博覧会への参加記念コンサートとして1900年7月にヘルシンキで行われました。シベリウス研究家によりますと発表当時は聴衆も評論家もこの曲の意味するゆえんがよく理解出来なかったそうですが、すぐさまこの作品の中に並々ならぬ熱い愛国の心を聞き取る様になったようです。この曲の演奏時間は約8分と短く、限られた時間でのフィンランドの歴史と思いを語る必要がありますので、奏者は沢山のエネルギーを費やしますが、フィンランドの情景と当時の民衆の熱い気持ちを少しでも感じ取れる演奏が出来れば幸いです。


H.T.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002