曲目紹介

リムスキー・コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」 作品35



 ニコライ・アンドレーヴィチ・リムスキー=コルサコフは1844年3月18日、ロシアのチフヴィンという町の貴族の家に生まれました。年少の頃より海にあこがれていたニコライは海軍兵学校に進みますが、17歳の年に作曲家、バラキレフと出会うことで人生が変わります。海軍兵学校を卒業後もバラキレフの指導を受けて作曲の勉強に専念をし、1871年にはペテルブルグ音楽院で作曲理論の講座を受け持つまでになりました。1884年には「実践和声法教科書」を書き、新しい和声楽を確率するにいたります。
 交響組曲「シェヘラザード」は1888年、リムスキー=コルサコフが44歳の年に着手され、その年の夏に完成されました。同一主題の反復や、変奏が頻繁に奏されますが、完成の域に達した管弦楽法の駆使により自在に変化する響きの組み合わせが、常に主題を新しい魅力で引き立てています。この曲は、美しいシェヘラザードが語る「千夜一夜物語」からの4つの物語が大枠になっています。サルタンであるシャーリアールは恋人の不実から女性を信用できなくなってしまった人物でした。彼のもとに差し出された女性と一夜を過ごすと片っ端から殺してしまうという残忍さで、以前の恋人に対する復讐を続けるのでした。ある夜、シャーリアールの前に差し出されたシェヘラザードは物語を語ることで一千と一夜を生き延び、ついには后として迎えられました。シャーリアールはシェヘラザードが語る話に好奇心をわき起こさせ、処刑を一日一日と延ばし、ついには残忍なる復讐をやめてしまったのです。
 楽曲は4楽章からなり、全体を通してサルタンの主題とシェヘラザードの主題が楽章の中にちりばめられています。サルタンの主題は、ある時は荒々しく、ある時はシェハラザードの語るいらだたしげに割って入り、またある時はすさんだ心を和らげられる表現になっています。シェヘラザードの主題はヴァイオリンの独奏によって、柔和に表情豊かに、ある時は復讐に固執したシャーリアールの心を解きほぐすかのように表現されます。

 第一楽章 海とシンドバッドの船
  短い導入部において、力強くシャーリアールの主題が示されます。続いてヴァイオリンの独奏でシェヘラザードの主題が、あやしく、幻想的に示されます。シャーリアールの主題は後に出てくる海の主題に形を変えていきます。音楽は低弦やクラリネットによって波を表現したモチーフに支えられています。ヴァイオリンがピアノで示す海の主題は次第にダイナミックスを増やし、船が波静かな港から大海原へと出て行くありさまを見事に表現しています。

 第二楽章 カランダール公の物語
  シェヘラザードの主題の後にファゴットで示される軽快で、ある意味では滑稽さすら感じさせるカランダール公の主題がある時はスケルツォで、ある時は木管楽器の自由な独奏によって表現されます。話に興じたシャーリアールが楽しげに主題を示します。

 第三楽章 若い王子と若い王女
  思いを語りかけるようなヴァイオリンによって奏される第一主題と、タンバリンにのって軽快に優美にクラリネットが唄う第二主題とで構成されています。曲が一度中断したかのようにオーケストラが沈黙しますが、再び示されるシェヘラザードの主題によってうながされ、第一主題が明るく健康的な若い愛を示して終わります。

 第四楽章 バクダッドの祭り・海・船の難破
  シャーリアールの主題に続きシェヘラザードの主題がカデンツァにより奏されるとフルートにより祭りの主題が現れます。祭りの主題が展開されると第三楽章で示された第二主題がこれに織り交ざり、祭りは次第に最高潮へと盛り上がり、ついには第一楽章の海の主題が改めて提示され、木管の美しい和音の中、静かに物語を語り終えて曲は終わります。


H.S.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002