曲目紹介

ベートーヴェン 「レオノーレ」序曲 第三番 作品72



 9つの交響曲、32のピアノソナタで有名なベートーヴェンは、一つだけオペラ作品を作り上げた。その作品は《フィデリオ》という名で広く親しまれており、獄中の無実の夫を救うために、その妻が「フィデリオ」と名乗る者に男装し牢獄に入り夫を助け出すという夫婦愛を描いた作品である。この主人公の本当の名前が「レオノーレ」なのである。
 このレオノーレに見るような勇敢で情愛深い女性像は、まさにベートーヴェンの理想であった。彼はこの台本に感銘を受け、苦心に苦心をかさね、心魂込めてこのオペラを完成したのだ。序曲はなんと4曲も書いたのである。今回演奏するレオノーレ序曲第三番は壮大で劇的な作品であり、4曲の中でもっとも傑出した作品と筆者は感じている。しかしながらオペラの序曲としては、比較的コンパクトにまとめられた4曲目「フィデリオ」序曲が採用されている。これは作曲家自身が、レオノーレ序曲第三番のような雄弁な序曲ではオペラ全体を「喰ってしまう」のでは、と懸念したためだと言われている。
 フィデリオ序曲が主題的にはオペラの内容と関連が少ないのに対し、レオノーレ序曲はオペラ全曲の内容を暗示し、劇の進行を予知させるようにできている。
 牢獄で苦悩する夫フロレスタンを描く序奏部により始まる。木管楽器に現れるアリア「人生の春に」は美しい。主部アレグロに入ると激情的な主題が次第に高揚して行く。そしてホルンに導かれ弦により再現される「人生の春に」はこの曲の最も美しいところである。展開部に入ると、フロレスタンの親友である大臣ドン・フェルディナンドの到着を知らせるトランペットが遠くから聞こえ、夫の開放の近いことを知ったレオノーレの感謝の歌が聞こえてくる。コーダでは輝かしく勝利を称え、息もつかせずに最後まで突進して行く。
 筆者はこの曲を聞き終えた後に残る「開放感」がたまらなく好きなのですが、皆様はどう感じられたでしょうか?

M.T.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002