曲目紹介

モーツァルト:フリーメーソンのための葬送音楽 ハ短調K.477(479a)



 この音楽は、モーツァルトが1785年11月半ばの数日間にウィーンで書き上げた葬送のための音楽です。この月の6日と7日にフリーメーソンの会員であったメクレンブルク公とエステルハージ伯が相次いで他界したため、彼らの追悼のために作曲されたものです。フリーメーソンとは18世紀初頭にイギリスで創設され、以来世界中に広がった博愛主義団体で、モーツァルトも1784年末に会員になったと伝えられています。
 曲は、オーボエ2本、クラリネット1本、バセットホルン(低音のクラリネット)3本、コントラファゴット(オーケストラで最も低音が出る楽器)1本、ホルン2本、ヴァイオリン2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバスという極めて特殊な編成となっており、葬送のための音楽に適した重厚で悲しみに満ちた音色を醸し出しています。
 ハ短調で奏でられる音楽は、たった69小節、演奏時間8分程度の短い曲ですが、およそこの種の音楽として最も感動に満ちた美しいものの一つであると思われます。終結部の8小節では、曲の冒頭部分が再び戻ってきますが、最後の1小節で奏されるピアニッシモの和音は短調ではなく、一転して長調に変わり、静寂のうちに全曲が閉じられます。モーツァルトは、この暖かいハ長調の和音で無言のうちに故人の安らかな眠りを祈り、天に昇り行く御霊に最後の別れを告げようとしたのだと思います。
 当楽団の設立以来、常に我々を暖かく見守り、その活動を応援して下さった青井さん。演奏会には欠かさず足をお運び下さり、我々を激励して下さった青井さん。その誠実で温かいお人柄を偲び、団員一同深い感謝と追悼の意を込めて、本日この曲を演奏させていただきたいと思います。


A.O.


© 東芝フィルハーモニー管弦楽団 2002